ラーメン屋さんと男の子6
(解説)
完結編ってことで全部の要素を一度にやろうとした作品。
御都合主義的展開は割と気に入ってたりします。
「えーと……」
僕は壁に張られたメニューを見ながら一番安いのはどれかを探した。
『ラーメン380円』
「すいません。ラーメンをお願いします」
ラーメン屋のお兄さんはジロジロと僕を見ている。
だよね。
十二、三歳の子供なら普通はハンバーガー屋かコンビニか、せいぜい牛丼屋
だもんな。
こんな『トラック野郎御用達』みたな店に入ったりしないよね。
「50円プラスで定食にできるけど?」
「じゃあ、そっちでお願いします」
店はピークを過ぎたらしくって客は僕だけ。
カウンターの奥では小柄な人が溜まった食器をせっせと洗っている。
あいつら諦めてくれるかな?
僕は、さっき出遭った奴等のことを考えると憂鬱だった。
あいつらは、今にもこの店に飛び込んでくるかもしれないのだ。
「はい、ラーメン定食」
ご飯とお漬物が付く程度だと思っていたのに唐揚げと餃子まで付いているし、
ラーメンもご飯も大盛りだった。
「ご飯はお代わり自由だからね」
こんな物をたったの50円違うだけで出して採算なんか合う筈がない。
でも、僕は転がり込んできた幸運をありがたく頂戴することにした。
「ね、君に兄弟っている?同じぐらいの歳で同じ服を着てて、君よりちょっと
キツイ感じの顔の?」
直樹だ。
直樹はこの店に来たことがあるんだ!
「その子が何処に行ったのか知りませんか?」
僕は、ゴクンと唐揚げを飲み込むと大慌てで尋ねた。
「三十分ぐらい前に何かから逃げるように飛び込んできて……」
「三十分ぐらい前ですか?」
それじゃ駅に行って電車にだって乗れてしまう。
「匿ってくれっていうから、そこで皿洗いしてる」
へっ?
奥にいた小柄な人が振り向くとそれは厨房服を着せられた直樹だった。
「ヘタに隠すよりこの方が目立たないからね」
「へへへ……直純元気だったか?」
「何が、へへへだよ!心配したんだぞ」
僕達は三日振りに明るい顔になった。
そして、同時に言った。
「で、直哉は?」
明るくなった顔はまた暗くなった。
お互いに直哉と一緒だと思っていたのだ。
ラーメン屋さんは『臨時休業』という張り紙をして店を閉めてくれた。
「ワケを聞かせてもらえないかな?」
僕と直樹は顔を見合わせた。
お世話にはなったと思うんだけど簡単に打ち明けていいものなのだろうか?
それに信じてもらえないかもしれない。
「僕が秋月直純で、こっちが直樹。僕達は双子なんです」
名前ぐらいなら教えてもいいって思った。
「ふーん、どっちがお兄さん?」
「俺が兄貴で直純が弟だよ。でも産まれたのは一分しか違わないんだぜ」
元々、双子のどっちが兄か弟なんてかなりあやふやなものだ。
聖書に出て来る双子が何故か後に産まれた方が兄になっていて混乱してて
病院によっては後に産まれた方を兄にしている。
「ツインズ」って映画でもそうなっていた。
日本の法律じゃ、先に産まれた方が兄なんだ。
でも、本人に取っては何かの時に長男って記入するか次男って記入するかの
違いでしかないんだ。
「で、誰かに追われてるのかい?」
訊かれたくない質問だった。
「……」
「……」
僕も直樹も無言だった。
「答えたくないみたいだね」
「ごめんなさい」
「じゃあ、構わないよ。直哉っていうのは弟かい?」
「はい、てっきり直樹と一緒なんだと思ってたんですけど」
「俺は直純と一緒だって思ってた」
じゃあ、直哉は何処に行っちゃたんだろ?
「もしかしてと思うんだけど君達と顔が似ててオーバーオール姿で七歳ぐらい
でちょっと甘えん坊気味で人懐っこい子?」
僕と直樹は顔を見合わせた。
「一時間ぐらい前に公園に散歩に行った親父が迷子を拾ってきてやたらと懐つ
いちゃってるもんだからつい……」
お爺さんに手を引かれた直哉が現れたのはその台詞が終わる前だった。
「ちょっとこの子のこと交番に届けて……」
「直純にいちゃん、直樹にいちゃん!」
直樹は僕達を見付けて叫んだ。
「お兄ちゃんかい?」
「うん!」
「よかったな。交番に行く必要がなくなったみたいだな」
僕は飛びついてきた弟の頭を撫でてやりながら、このラーメン屋さんは奇蹟
を起せるのかもしれないって本気で思った。
直樹はポカンと口を開いて、この奇蹟の再会に驚いていた。
「そんなに贅沢はさせてやれないし、三人でひとつの部屋を使ってもらうこと
になるけどね」
ラーメン屋さんはそんなことまで言ってくれた。
まるで夢のような話の展開だった。
たまたま、そこに在ったラーメン屋に飛び込んだだけなのに。
*****
「うひゃっ!」
僕は水をぶっかれて意識を取り戻した。
「気絶したって無駄だぞ純一。お前のことは跡取りだなんて思わないからな。
直哉と同じ慰みの為の玩具だ。跡取りはなんかまた女に産ませれば済むこと
なんだからな」
僕は両手に鉄の枷を填められて天井から吊るされていた。
地下室の中には様々な拷問の為の道具が転がっている。
目の前には、サデスティックな表情をした一人の男。
僕がこの世で一番嫌いな男だ。
こんな男の遺伝子を半分でも受け継いでいるかと思うと反吐がでそうだ。
「いや、直純とか名前だったかな?そんなに俺がやった名前が気に入らなかっ
たのか?」
ああ、気に入らない。
あんたから貰った物は何もかも気に入らない。
「だから、ラーメン屋の男をたぶらかして逃げたのか。あいつも可哀相にな。
店を売り払ってまで逃げたのにな」
???
何があったのか全然思い出せない。
「忘れたのか?そうかショックで記憶が飛んだな。俺が店に放火させてお前の
目の前で焼け死んだんじゃないか」
う、うそだ!
「さてと、お仕置きといえば、お尻叩きと決まってるんだが、後ろにはコレを
入れなくちゃならないからな」
奴は、極太の張り型を見せびらかした。
「直哉の場合は、段々と太いのにしていったがお前には最初から太いのを入れ
てやるからな。で、お尻を叩けない代わりに前を鞭打ちしてやるよ」
や、やだ。
僕はガクガクと震えた。
!!!
そして見付けてしまったんだ。
器具の間に転がってるボロボロになった直哉の死体を。
思い出してきた。
僕の目の前で責め殺されたんだ。
鋭角な三角木馬に載せられて両足に昔の囚人みたいな鉄の重りを付けられて、
ギャーギャー喚いていた小さな弟。
手足を無理矢理にギリギリと引っ張れる頃になるともう声も出せないで涙も
出せない。
訴えるような目で僕に助けを求めているのに僕は何もできなかった。
ただ、吊るされて眺めているだけ。
やがて直哉が動かなくなってしまうとゴミの様に床に投げ捨てたアイツ。
逃げたからって理由だけで我が子を責め殺す。
僕は、心の中で直哉に詫びた。
「ごめんよ。お兄ちゃんだなんて言って何もしてやれなかった。でもこれで
苦しみから解放されたね」
それで、気を失って……
僕ももうすぐ同じ姿にされちゃうんだ。
「安心しろよ。お前は大事な玩具だからな。直哉と違ってもう出せるんだろ?
十二年も育ててやったんだもんな。鞭打ちのお仕置きが終わったら、素敵な
アクセサリーをプレゼントしてやるよ。乳首とチンチンにでっかいピアスを
してやろうな。銅線も付けて電気も流せる奴だぞ。ちゃんと重りも吊るして
やるから安心しな。千切れたら別の穴を空けて何度でも吊るしてやるからな」
僕は、その台詞が冗談なんかじゃないことが分かっていた。
「ぐっ!」
お尻の穴を強烈な痛みが襲う。
そして、気が狂いそうになるような振動、高周波のピリピリとした感覚も
混じっている。
「くっ!」
股間に与えられる鋭くて絶え難い、鋭い痛みと鈍い重み。
「ふふふ、堪えてないで声を出した方が楽だぞ」
だ、誰がおまえなんかを喜ばせてやるものか!
僕の意識は再び遠くなった。
*****
「直純!」
目を覚ますと、父さんと母さんが居た。
この世で一番見たくない義理の両親。
僕を弟から引き剥がした張本人。
「父さんと母さんは仕事に行って来るからちゃんと留守番してるんだぞ」
「世間体が悪いから家出なんかしちゃダメよ」
その後も二人は散々、注意というよりは僕の悪口を並べ立てると不機嫌そう
な表情で家を出た。
何が仕事だよ。
偉そうな顔をして、教育問題がどうこうとか大ウソ並べた話をして法外な金
をふんだくるだけじゃないか。
あんたらに教育を語る資格なんかないよ。
外面ばかり整えやがって。
僕は心の中で悪態をつく。
確かに両親は体罰も折檻もしない。
だけど、心の痛みの方がズキンと来ることだってあるんだ。
あいつらは心の痛みなんて感じないんだ。
直哉には僕が、お兄ちゃんが必要だったのに。
お兄ちゃん、お兄ちゃんと僕の乗せられた車を追い掛けて来た直哉。
それが僕の知っている最後の姿。
涙で顔がグチャグチャになっていた。
あの後、孤児院に送られたらしいんだけどどうしているんだろう。
大好きな両親が事故で急に死んでしまって、お兄ちゃんの僕まで連れていか
れて、知る者もいない孤児院に送られた可哀相な弟。
なのに『世間体』とかいう怪しい物の為に遭いに行くことも電話をすること
も手紙を書くことも許してくれない義理の両親。
『世間体』って何なんだよ。
困ったら助けてくれるのか?
悲しい時に一緒に泣いてくれるのか?
少なくとも僕と直哉は困っている時にもっと困らせられて悲しい時に悲しみ
を倍増させられた。
僕が差し出した96点のテストを見て、満点じゃないって言った両親。
平均点は48点だってって言ったら言い訳するなと言われた。
部活で全国2位になったら優勝じゃないって溜息をつかれた。
そしてお決まりの台詞。
「弟を引き取った方が良かった」
本当の両親は、僕を誉めてくれたし、怒ってもくれた。
今の両親は、決して誉めてはくれないし、怒ってもくれない。
ただ、溜息をついて嫌味を言うだけ。
なのに、偉そうに自分達の教育の結果だって僕のことを他人に話す。
僕は、あんたらには何も教えてもらったことなんてないのに。
だた、自慢の道具に使われる。
留守番ばかりはもう嫌なんだ。
遊びにだって行きたいし、塾にだって通いたい。
家と学校以外の世界が欲しいんだ。
重い気持ちと足取りで部屋に戻る。
そこにあるのは、机とベッドだけ。
漫画どころか本も買ってくれないから本棚は必要無い。
図書館から借りてきた本にだって、これは悪書だとか言って文句を言う。
読んだこともない癖に何かのリストに載ってるからって。
テレビも見せてもらえないし、ゲームなんて買ってくれるワケがない。
お小遣いだってロクに貰えない。
仕方が無いから昼食代をチョロまかして貯めている。
遊びに行くこともできず、テレビも本も無い家で何をしろっていうんだ?
今のうちに表でも掃こうかな……
僕に取っては貴重な暇潰しだ。
「直純くん、いつも感心ね」
ほうきを持って表に出た僕に近所のおばちゃんが声を掛ける。
言ってやりたい。
他にすることがないんです。好きでやってるんじゃないんですって。
僕はそんな簡単な台詞も言えずに『世間体』の為に掃除をしているのだ。
あーあ、気が重いったらありゃしない。
*****
気が重い?
そう見知らぬ男に抱かれるのは気が重い。
でも、それが僕の商売だから我慢しなくっちゃならない。
男なのに女のように体を売って生活する。
それは、とても辛い。
疲れ切った顔を学校の先生が心配してくれても理由なんか言えっこない。
僕はホモの変態だから。
男に見られて、触られて、抱かれて感じる変態少年なんだ。
同じ歳の男の子が、道端で拾ったHっぽい本とかコミック雑誌のグラビアを
回し読みしてドキドキしたり、初めてのオナニーを親にバレないようにやっ
てパンツの処理に困ったりしているような頃に、僕のお尻は緩る揺るにされ
ちゃってて、酷いときには作り物を挿入されて前からは白いモノを出してい
るのをニヤニヤと笑う男達に見られたりしてるんだ。
どこもかしも汚れてしまった男の子。
クラスの男の子は無垢のように白いのに僕だけは黒く薄汚れている。
白い部分なんて何処にも残っていない。
みんなは汚れてる部分を探す方が大変だって言うのに。
成長しちゃったら、体を売りにくくなるな。
あと二、三年かな?
みんなが自分の成長を楽しみにして、女の子にときめいたりしている時に、
僕はそんなことを考えてるんだ。
体どころか心の中まで薄汚れている。
僕は、自分の体を少しでも幼く保つ為に、股間部に生え始めた毛を剃刀で、
丁寧にそり落としていく。
「剃れば剃るほど濃くなっちゃうんだよな」
そういえば、誰かに見てもらって剃ったことがあったような気がする。
あれは誰だったんだろう?
とっても大事な人だった筈なのに思い出せないや。
大事な人?
僕には大事な人なんているんだろうか?
『大事な人の大事な人になりたい』
それが僕の夢。
でも、誰にも愛されない。
ただ、体を求められるだけの存在。
それが僕の正体。
だから、僕は誰も愛せない。
体で愛を感じても、そこにあるのはビジネスライクな関係だけ。
それが悲しい。
そんなドライな関係じゃなくってもっとウエットな関係が欲しい。
体だけじゃなくって、心を求めてくれるような人が欲しい。
高価な贈り物をされる女の人が羨ましい。
僕は、お金で体を売るだけだから。
貢いでくれる相手さえいない。
男に抱かれるだびに僕の寂しさは大きくなっていく。
『僕を連れて逃げてくれないかな?それだけで一生を捧げてあげるのに。すぐ
に捨てられたって恨んだりしない。一緒に居たいって言ってくれるだけで僕
の全部をあげるのに』
そんな想いはいつも手渡される料金と共に打ち砕かれる。
「もうちょっと出してよ。あんなにサービスしたんだからさ」
口から出るのはそんな嫌な言葉ばかり。
僕に取って大事な人がいるとすれば、それはお父さんだけ。
でも、お金で繋がれてるだけの親子関係。
外猫が餌をねだりに来るように僕からお金だけを持っていくお父さん。
僕を担保にして借金を重ねる酷い父親。
もうウンザリだ。
でも他に身内が居ないんだもの。
僕の悩みは誰にも話せない。
話せば逮捕されちゃうから。
警察も世間も僕に同情してくれるだけで僕が職を失って干からびて行くのを
助けてなんてくれない。
だから、誰にも相談できない。
誰か、僕を助けてよ。
*****
でも誰も僕を助けてはくれない。
僕を見てくれる人は誰もいないから。
お母さんに取って僕はペットと同じ。
かまってくれているだけ。
それは、ジャンケンに負けてニワトリの飼育係をしている子供と同じ。
兎が死んだら悲しむけど乱暴者のニワトリが死んでもお情けでチョッピリの
涙を流すだけ。
でも中には心から涙を流してくれる子もいるかもしれない。
きっとニワトリは少しでも印象に残りたくって子供の手を突ついているんだ
と思う。
だって、縁日で売られていた仲間は殆どがヒヨコの時に死んでしまって
『ひよこのはか』って書かれたカマボコ板の下に埋められて三日も経ったら、
枯れた花と一緒に腐っていくだけ。十日も経ったらカマボコ板だって何処か
へ蹴り飛ばされている。
だから、少しでも自分が生きていた証を何処かに残したいんだ。
自分を見てくれる誰かを探す為に乱暴を繰り返す。
そう、僕はニワトリと同じなんだ。
『もうすぐ死んじゃう可哀相な男の子』とか『遊んであげなきゃ可哀相』じゃ
なくって『お友達の直純くん』として遊んで欲しいんだ。
僕は死ぬ為に生まれてきたんじゃない。
生きる為に生まれてきたんだ。
僕は僕として誰かの心の中に生きたかった。
例え悪人として記憶されたって消え去ってしまうよりはマシだって思った。
だからニワトリのように悪さを繰り返した。
でもね、人間ってなかなか死なないんだ。
死ぬ死ぬって思っても死なないんだ。
死ぬたくないって思っても死んじゃう人がいるように。
1999年に世界が滅びなかったように僕もなかなか死ななかった。
僕はただの『悪い子』としてしか記憶されなかった。
そして、誰も彼も離れていってしまった。
僕は馬鹿だからずっと悪い子だった。
『悪党』じゃなくって『悪い子』。
ネコのように誰かにかまって欲しかっただけなのに、ネコのように都合の
良いかまわれ方を期待した代償。
僕が欲しいのは、えさせてくれるお母さんじゃなくって本気で怒ってくれる
お父さん。
そのお父さんは何処かで大好きだった弟と暮らしている筈なんだ。
もう一度遭いたい。
そして、また弟と二人でイタズラして、お尻をペンペンして怒って欲しい。
それが僕の一番幸せだった頃の記憶だから。
*****
「直純、おい直純しっかりしろ!」
ぼ〜っとした頭に、お兄ちゃんの声が聞こえる。
お兄ちゃん?
誰だっけこの人?
「あ、あのどちら様ですか?」
心配そうに覗き込んでいる小さな男の子と僕と良く似た男の子。
彼等のことも知っているような気はするんだけど思い出せない。
「おい、直純ってばしっかりしろよ!俺だよ。直樹だよ」
「直純兄ちゃん、どうしちゃったの?直哉だよ〜」
直樹に直哉?
顔も似てるし名前も似てるし、兄弟なのかな?
「お兄ちゃん、どうしよう?直純ってばおかしくなってるよ」
直樹が泣きそうな顔でお兄ちゃんを見詰める。
直哉はもうグスグスと泣いている。
「日射病かなんかで一時的に記憶が混乱してるだけだと思う。それか何かの
ショックとか」
僕は、錯乱する記憶の中で3人に関する記憶を手繰り寄せていた。
そして、ボンヤリと記憶が戻ってくると、自然と涙が頬を伝わっていた。
「ごめんね。忘れたりしちゃいけない大切な家族なのに……」
*****
僕はどの現実から来て、どの現実へと辿りついたのだろうか?
その答えは僕にも分からない。
お兄ちゃんに遭ってからもう随分と経ってしまった。
僕の年齢は、あの頃のお兄ちゃんをとっくに追い越してしまった。
もうひとつ分からないのは、店の前に写した記念写真。
いつの写真なのか、誰が写ってるのか良く分からないんだ。
ただ、分かっていることもある。
今の僕は幸せだってこと。
それから、もうすぐ十二歳ぐらいの男の子が独りで、溜息をつきながら店に
入ってくるだろうってこと。
『ラーメン屋さんと男の子・完結』
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