※デジモン02をご存知無い方はワケが分からないと思います。
一応、パロディですんで。
「だ、大輔?!」
ブイモンが驚きの声を挙げる。
その他のメンバーも呆然としたり唖然としたりと一様に大輔の変化に戸惑っている。
「な、なんだよ?俺がどうかしたのかよ」
だが、当の大輔だけは何が起こったのか分からないでキョトンとしている。
「あ、あのね……」
京が都合良く所持していた手鏡で大輔の姿を映し出す。
「な、なんだよ、これ〜!」
そこには赤ん坊の姿をした大輔の姿があった。
そう、ここはデジタルワールド。
何が起こっても不思議では無いのだ。
事の起こりは、京がキャンプに行きたいと言い始めたことだった。
「夏休みだからって、ここんとこ連ちゃんじゃないの。たまには息抜きでもしたいわよ!」
ワガママを発揮した京を押し留めることは誰にもできない。
伊織はヤレヤレと肩をすくめ、タケルとヒカリは顔を見合わせ、大輔はしぶしぶと賛成する。
「んじゃ、大輔、荷物持ちに来て」
「なんで俺が!」
「か弱い女性に重い荷物を持たせる気?」
ダジっ。
別にタケルでもいいようなもんだが、こういう力仕事は大輔の担当だと京は判断しているようだ。
「じゃあですね、各自用意をしてから集合ということで。
みなさん途中で京さんちのコンビニに寄って荷物を持つということでどうでしょうか?」
一番年下の筈の伊織がテキパキとその場をまとめる。
およそ1時間後、選ばれし子供達はデジタルワールドに居た。
青い空に白い雲。
緑の草原に、見たことの無い虫の飛び交う雑木林。
流れる清流と豊かな水を湛えた湖。
そして、建ち並ぶバンガロー。
ダークタワーの影も見えない。
「ふ〜、まるでキャンプをする為にあつらえられた場所ね」
満足気な笑顔を浮かべた京が言った。
「ほんとですね」
笑顔ではないが伊織も賛同する。
「ほんと、綺麗な場所ね」
とヒカリ。
「ここんとこ、戦いばかりだったからね。やっぱりたまにはこういうのもいいよね」
タケルが爽やかな風に飛ばされそうな帽子を押さえながらパタモンと見詰め合う。
「おまえら……ちょっとは手伝おうって気がねえのかよ……」
後方では、大量の荷物を持った大輔が大汗を流している。
ブイモンが形ばかり支えているが効果は薄そうだ。
「時間に遅れて来た、あんたが悪いの」
「そ、そんな〜」
「大体、男でしょ。これぐらいの荷物が持てないでどうすんの」
「へいへい」
大輔は京には逆らえない。
いや、ヒカリにも逆らえないし、怒った伊織にも逆らえない。
時にはお兄ちゃんぶったタケルにも逆らえない。
「大輔……カッコ悪い」
ブイモンは、ボソっと言った。
「でも、ごめんね〜。バンガローが在るなんて思わなかったからその荷物の半分はテントなのよ」
どうして、コンビニにテントがあったのかは謎だ。
「俺はいったいなんなんだ〜!」
大輔は、大空に向かって叫ぶ。
「残りの半分はやはり?」
ホークモンが京の顔を見る。
「もちろん、食料よ」
「お母さんにお願いして、かんぴょう巻きも作ってもらいました」
「わたしもカレーを作ろうと思ってカレー粉とジャガイモとタマネギと牛肉を持ってきたの」
「へえ、僕もカレーの材料持って来たんだよ。あと飯盒と大きな鍋も」
(どこに持ってたんだ?タケル)
一同の視線が大輔に集中する。
「え?俺は……」
バツが悪い。
「……荷物運びでも水汲みでもさせて頂きます」
「大輔……カッコ悪い」
「なんだよ、お前がテレビなんか見てるから遅くなったんだぞ」
「大輔だって漫画読んでたじゃないか!」
一同の冷たい視線。
「あんたらそんな理由で遅刻したの?」
それを無視するように大輔は走り始めた。
「水でも汲んでくるよ。行くぞ!ブイモン」
異変は、大輔が湖の水を飲んだ時に起こった。
いや正確には足を滑らせて湖に転落して上がって来た時だ。
「な、なんで俺、ガキになってんだよ〜!」
今や伊織よりも年下だ。
都合良く、通りかかった親切なデジモンの話によると林の向こうにも湖があり、
そっちの水を飲むと元に戻るそうだ。
「うーん、如何にもファンタジーにありがちな設定ね」
「み、京さん。そういうことを言っては」
協議の結果、空を飛べるホルスモンとぺガスモンが水を取りに行くこととなった。
伊織とヒカリは残って食事の用意と大輔のお守りである。
「ほ〜ら、大輔〜、べろべろば〜」
ブイモンが赤ん坊の大輔をあやしている。
「あのなブイモン……俺は本当の赤ちゃんじゃねえんだからよ……」
そう応える大輔は、伊織の持って来ていたバスタオルに包まれてバンガローの階段に寝かされている。
「そんなことしてねえで、伊織を手伝ってやれよ」
見ると伊織は一人で一生懸命に慣れない手つきでジャガイモを剥いている。
アルマジモンはウロウロしているだけである。
元来が四本足なので手先はあまり器用ではないのである。
二本足のブイモンの方が確実に手伝えることは多そうである。
「あのさ…もういいって言われちゃって」
「なあ、もしかして俺達って、ただの足手まとい?」
二人は大きな溜息をついた。
その時、ヒカリが何かを手にして歩いてきた。
テイルモンが木々の間に素早くロープを張る。
洗濯物。
そう、彼女達は水に濡れた大輔の服を洗ってくれていたのだ。
「なあ、ヒカリちゃんって家庭的だよな?」
「そうか?」
ブイモンの脳裏には、先程自分と同じように伊織に追い出されたヒカリの姿が浮かんでいた。
だが、大輔は勝手に結婚して一緒に洗濯物を干すなんていう甘い妄想に浸っていた、
ヒカリが、白いブリーフを干すのを眼にするまでは。
「ヒ、ヒカリちゃん……あんなもんまで」
「大輔顔が真っ赤」
「うううるせえ!」
ドカッ!
短い足だが近距離にいるブイモンを蹴り倒すぐらいのことはできる。
「なにやってるんだぎゃ?」
いつの間にかアルマジモンが近くにいた。
結局、伊織に追い出されたらしい。
ポカポカとしていた。
京とタケルは、まだ戻って来ない。
とっくにカレーは完成したのに。
伊織と大輔とブイモンとアルマジモンは固まって眠っていた。
「ね、テイルモン」
「なあにヒカリ?」
「こうしてると、この二人って兄弟みたいで可愛いね」
そう言いながら、いつも首から下げているデジカメで撮影する。
「でもさ、大輔くんが弟の方が似合ってる」
「それは言えてるかも」
大輔が聞いたら激怒するような台詞だ。
「ふぁ〜」
「私達も寝ようか?」
「…伊織、おい伊織ってば」
伊織は小さな声で起された。
「なんですか?大輔さん」
見た目は自分よりも小さくても年上に対する礼儀は同じらしい。
「あのさ…俺…トイレに行こうとしたんだけど…」
最後まで言って貰わなくても見れば分かった。
赤ん坊の体では階段を降りられなかったのに誰も起きてくれないから
その場で漏らしてしまったのだ。
「あーあ、でも仕方ないですね。僕ちょっとタオル持ってきますから」
ドタバタ。
「こら〜、もっと静かにしねえと……」
その心配は遅かった。
ヒカリは既に眠そうな眼を擦って、大きな欠伸をしていた。
「これでヨシ!」
「あ、ありがと。ヒカリちゃん」
「即席にしてはよくできたわよね」
「……」
大輔は死にたい気分だった。
好きな女の子におもらしの後始末をさせて
タオルで作った即席のおむつをあてられてしまったのだから。
ブイモンは、そっとアルマジモンに囁いた。
「俺、情けない……」
「あっ、戻ってきただぎゃ」
空の彼方に2つの影が見えた。
大輔は無事に元に戻った。
「どう何ともない?」
「大丈夫だから、あっち向いてろよ」
「なんでよ?心配してやってるのに!」
「見られてたら着替えもできねえだろうが」
そう、まだバスタオルを巻いたままの格好だ。
そんな大輔と京を見てヒカリがクスクスと笑っている。
「へえ、けっこう大変だったんだ」
みんなでカレーを食べながら、タケルが呑気に言った。
おもらしの一件をアルマジモンが話してしまったのだ。
「うるせえ!」
大輔は、ムスっとしてカレーを口に放り込んでいる。
「あの〜、京さん。僕もう元に戻ってもいいですか〜?」
「ダメよ。せっかくこんなに格好いいのに」
「でも〜」
「決めた!あたしヤッパリ伊織くんと結婚する!」
もうひとつの湖の水で10歳程年を取らされた伊織は京にベタベタとされて困っていた。
「ねっ、やっぱり伊織くんがお兄ちゃんの方が似合うよね?」
ヒカリは、そっと囁いた。
テイルモンとタケルは苦笑しながら頷いた。
彼女が年上を見る時は、『お兄ちゃん』という言葉で兄の影を追っているのを知っていたから。
それを知ってか知らずか大輔はブイモンと喧嘩していた。
「てめえ、肉ばっかり多めに食いやがって!」
「大輔もニンジン避けてるじゃないか〜!」
デジタルワールドの一部は平和だった。
そして、デジモンカイザーは、仲間外れにされて、やっぱり怒っていた。