空を見上げると花火が光っている。
それなのに僕はトイレを探して右往左往しているのだ。
いつもみたいに川にしたら気持ちいいのに。
きっと、おしっこが花火でキラキラ光って綺麗だろうな。
でも、人がいっぱいでそんなことは無理だ。
物陰で立ちションもできないぐらいに人がいるんだ。
何処から涌いたんだって思うぐらいに。
近くの公衆トイレは使えない。
何故って?
里中先生が並んでるのを見ちゃったんだ。
子供だけで、花火見物に行っちゃいけないって学校で言われてるのに
見つかったら怒られるに決まってるじゃないか。
先生のお説教は長いんだ。
そんなの聞いてたら、おしっこ漏れちゃうよ。
絶対に途中でトイレになんか行かせてくれっこない。
あの先生ってばサドだもん。
こないだ、ふざけてて教室のガラスを割った高石くんはお説教の途中で
トイレに行かせてって頼んだのに行かせて貰えないで漏らしちゃったんだ。
教室には女の子もいたのに。
5年生が1年生みたいに保健室でパンツを借りて帰ったんだ。
とっても情けなかったと思う。
僕達は男子も女子も高石くんに同情したんだけど、
里中先生はニヤニヤ笑ってたんだ。
僕は決心を固めると自転車に飛び乗った。
中田君、待たせてちゃってゴメンね。
なるべく早く戻るから。
ちょっと遠いけど、この辺りで知ってる唯一のトイレ、5分ぐらい走った所にある
ショッピングセンターまで行くことにした。
あそこは夜の10時まで営業してるからまだ開いてる。
でも、人ゴミの中を自転車で進むのは思ったよりも難しかった。
気持ちは焦るし、涼しい筈の夜なのに汗はダラダラ流れてくる。
自転車置き場でスタンドを立てている余裕も無かった。
適当に転がして、二階のトイレへエスカレーターを駆け上る。
いや、そのつもりだったんだけど、ゆっくりとしか足を動かせない。
ぴょんこ、ぴょんこ……もじもじもじ……
体を小刻みに動かして何とか我慢する。
ひゃん!ひゃん!
エスカレーターがガタンガタンする度に漏れそうになる。
……ちょっとパンツが濡れちゃってた。
飛び込んだトイレの中は、ちょっと混んでいた。
でも、あと1人だけ待てば、おしっこができる。
ヨシ!空いた!!
フッと気持ちが軽くなった瞬間、ふわっと気持ちが良くなった。
生温かい感触と共に、じゃあじゃあという音が聞えてくる。
トイレの中にいた人達が一斉に僕の方を見る。
僕は、薄黄色の雫を滴らせながら何気ない顔をして個室が開くのを待った。
先に並んでいた人達は同情して順番を譲ってくれたんだ。
パンツはぐっしょりと濡れていた。
ズボンもかなり濡れている。
僕は意を決すると、便器を綺麗に流して、
新しい水でズボンとパンツをバシャバシャとやった。
こうなったら、完全に濡らして絞った方がマシだと思ったから。
辺りをビショビショにしながら、力いっぱいに固く絞る。
そうしている間中、股の間がスースーして情けなかった。
濡れたパンツとズボンは、ヒンヤリとして僕の失敗をイヤでも感じさせてくれる。
個室から飛び出した僕は、周りにいる人全部が笑っているようで顔を真っ赤にした。
僕より小さな男の子も何人かいたっていうのに。
逃げるように自転車に飛び乗ってショッピングセンターを離れる。
暗いから濡れたズボンはそんなに目立たなかった。
僕は、ほっとして、はぐれちゃった中田君達を探した。
中田君は、トイレの前で里中先生に怒られていた。
周囲では何人かの大人達が足を止めてその様子を眺めていた。
声を立てて笑ってるおばさんもいる。
中田君は顔をグシャグシャにして泣いていた。
ジーンズの半ズボンの一部の色が濃くなっていて、
足には水がツーッと流れているのがココからでも分かる。
やっぱり、里中先生ってサドなんだ。
でも、僕はちょっとホッとしていた。
だって近所で『おもらし君』って呼ばれるのは僕じゃなくって中田君になる筈だから。