君のいない夏休み
大助&友也シリーズ5

2000/09/11UP

(解説)
ホモ疑惑否定の為の作品。
こうやって、女の子とくっつけるから異端だって言われるんだよなあ。
でも最初からこういう感じを考えてました。


 その大事なブリーフだけは洗濯機に放り込めない。

 だから、コッソリと手洗いする。

 友也は、家に誰もいないことを何度も確認するとヨレヨレに
 してしまった下着を洗面所で ゴシゴシと洗った。

 朝立ちの後のパンツやパジャマでも知らん振りをして洗濯機に
 放り込んでグルグル回す癖に。

 友也の宝物の元の持ち主は交換した物を洗ったりしない。

 隠してもいない。

「やだ、大助ったらパンツを額に入れたりして何を考えるのよ」

 お母さんが嫌がるのも当然だ。

 本来であれば500ピースのジグソーパズルが収まっている筈の
 フレームに白いブリーフが収まっているというのは奇妙で変態的でさえある。

「だってこれ友也のなんだぜ」

 大助はそれがそうしてそこに飾られているのは当たり前だというような顔をする。

「友也君の?」

「うん、貰ったんだ」

 お母さんは大助が無理矢理に下着を剥ぎ取っている姿を想像した。

「まさか、強引に脱がしたんじゃないでしょうね?」

「ちゃんと、俺のと交換したよ」

 やれやれ。

 何をどう考えれば、そういう発想が出て来るのだろうか?

 まあ、ずっと友也君にベッタリだったし仕方ないか。

 そのうちに彼女でも出来てまともになるだろう。

 お母さんは、のんきにそんなことを考えていた。

 が、流石に10分も経たないうちに『立候補』が現われるとは想像もしていなかった。

 
 ピンポーン。

「はいはい……」

 玄関先の人物は、少々陽に焼けていたし、多少筋肉も付いていた。
 だが、白地に向日葵模様のワンピースなど着る男の子はいないと思う。

「あの?大助のお友達?」

 その問いにボーイッシュな顔はニカッと白い歯を見せて嬉しそうに頷く。

「はい、野上日名子って言います。大助くんと同じクラスです」

 母親に背中を押されるようにして大助が現われる。

「あれ?野上じゃねえか。何しに来たんだよ」

 大助も予期せぬ来訪者が何の為に現われたのか理解できないでいる。

 母親が後ろから頭を殴る。

「痛ってえな、何すんだよ!」

「この馬鹿息子。女の子が尋ねてきたら
 『よぉ上がれよ』とか言って上がってもらうのが普通でしょ?」

「こいつが、そんなカワイイ玉なもんか。陸上部で男子を殴り倒してるような女なんだぞ」

「こんな馬鹿の言うことは気にしないで、上がってね」

「は、はあ」

「ててて……、耳引っ張るんじゃねえ」

 大助は耳を引っ張られて部屋に連行された。


「で、何しに来たんだよ」

 母親がコッソリ覗けないようにドアを開け放つ。

 どうせ、何もする気はないから構わない。

「あ、あの飾ってあるパンツってもしかして友也君の?」

「そ、そうだけど、関係ねえだろそんなこと」

「大事そうに飾ってるってことは、やっぱり本当だったんだ」

「何がだよ?」

「あんたらがホモだって噂」

「な、なななな何言ってんだよ!!」

「慌てるってことは真実なのね」

「なんだよ!そんなクダラナイこと言いに来たのかよ」

 日名子は立ち上がるとバタンとドアを閉める。

「ううん。噂を否定しに来たの」

「否定?」

 日名子は、殆ど前置きも無しに大助の唇に自らの唇を重ねた。

「ななな、何すんだよ!」

「自分でも卑怯だって思ってる。友也君が引っ越しちゃって落ち込んでる心の隙間に
 潜り込もうだなんて。
 でも大助のことが好きなの。この気持ちだけなら友也君にだって負けない自信あるの。
 だからさ、わたしと付き合ってよ。そしてら誰も大助をホモだなんて噂しなくなるわよ」
 
 大助は流れに弱い。
 
 クラスメートで陸上部で、気が強いことで有名ってことしか知らない女。
 
 それだけの関係なのに、ちょっと気持ちが動いている。

「ねえ、おばさん。大助に好きな女っているの?従姉妹とか近所のお姉さんとか」

 ドアの向こうから答えが聞こえてくる。

「いないと思うわ。女のイトコはいないし、近所にお姉さんなんて年齢の女の子もいないし…
 …でも大胆ね日名子ちゃんって」
 
 困ったことにお母さんは日名子を気に入ったようである。


「あのパンツってオナニーに使ってるの?」

 日名子は周囲に人影の無いことを確認して小声で言った。

 大助は彼女を家に送り届けることを母親に命令されてしまったのだ。

「なんてこと言い出すんだよ!おまえ本当に女か?」

「友也くんが相手なら浮気してもいいわよ。男同士じゃ何をやっても子供なんてできっこないから」

 大助は絶句して、日名子の顔をシゲシゲと見詰める。

「理解力あるでしょ?でも女の子相手はダメよ」

「なななな……」

「もう、アンタはわたしの物なの!」

 日名子は再び唇を重ねた。

 そして、大助の股間に手を伸ばす。

「ば、馬鹿。何すんだよ」

「あのね、ズボン脱いでくれたら直接触ってあげるわよ」

「ば、馬鹿!」

 大助は心の底から日名子が怖くなった。

 気が付くと、突き飛ばして駆け出していた。

「な、なんだよ。あの変態女は!……友也〜、お前が居ないからだぞ、あんな変なのが出てくるの」


 一方の友也も妙な女にまとわり付かれていた。

「やっほー、手伝いに来たよ〜!」

 その女はそう言って現われた。

 引っ越し先に近所に住んでいる従姉妹。
 暇な大学生。
 それが手伝いに来るのは不思議でも何でも無い。

「わ〜?友也君?大きくなったね。叔父さんや叔母さんには会ってるけど
 友也君と逢うのって何年振りかな?」

「月子姉ちゃん?」

「覚えててくれたんだ。偉い偉い」

 月子は友也の頭をグリグリと撫でる。

 完全に子供扱いだ。

「覚えてるっていうか、忘れられないっていうか」

 というより、イトコと名の付く存在は一人しか居ない。

「あはは、初恋の相手だもんね」

 大嘘である。

 足を掴んで振りまわされた挙句に手を離されて怪我をしたとか、
 一緒に風呂に入っていて頭を湯船に突っ込まれて溺れさせられたとか、
 ハサミで髪の毛を切られてハゲにされたりした相手のことを忘れる筈はない。

「そ、そうだね……」

 幼い友也に取って月子は恐怖の対象だった。

 逆らわない方が良い。

 本能がそう告げていた。

 あの頃の友也は4歳だったから、ロクに覚えている筈が無いのだが、
 父母の思い出話が記憶をフォローしていた。
 
 そういえば、月子は今の友也の年齢だった筈だ。
 
 その割には無茶苦茶なことをしてくれたもんだ。
 
 やはり、トンでもない女である。

「あんた、ビビってない?」

「そ、そんなことないと思う」

 声がうわずっている。

 どうやら友也にも苦手な相手はあったようである。

「あ、そうかそうか。おしめを替えてもらった相手には頭が上がらないっていうもんね」

「えっ?僕がおしめしてた頃って姉ちゃんも小学生だったんじゃ?」

「あら、何回か替えてあげたのよ。なかなか濡らさないから無理矢理にミルク飲ませたりして」

 月子は友也を人形のように抱きしめながら数々の幼児虐待行為の想い出を楽しそうに語った。

 昔も今も、友也はお人形さんかペットであるらしい。

 父母は息子に無茶苦茶されるから逢わさないようにしていたことは黙っておくことにした。
 

「友ちゃん、一緒に寝てあげる」

「いいよ。子供じゃあるまいし」

「幾つになっても友ちゃんは子供よ」

「月子姉ちゃん、いつから俺の母親になったんだよ」

「うーんとね、おっぱいあげた時からかな?」

 月子は3日に一度の割で現われては友也で遊んでいく。

「知ってる?イトコって結婚できるんだよ。友ちゃんが結婚できなかったら責任取ってあげるから」

「結婚できないのは姉ちゃんの方だろ?」

 相変わらず、頭は上がらなかったが嫌味で反撃するぐらいのことはできるようになってきた。

 そんな頃だった。

 父親の会社が完全に倒産したのは。

 幸いにして、前の家は持ち家でまだ売れていなかったので大慌てで再び引っ越すことが決定した。

「あと3週間早く潰れてくれれば引っ越す手間も省けたのに」

 そうしたら、月子姉ちゃんの玩具にされることもなかったんだ。

 友也は大助に逢うのは少々照れ臭いと思った。


「お別れに一緒にお風呂に入ってくれなきゃやだ〜!」

 月子は大泣きして友也の顔を見詰める。

 何処かで聞いたような展開である。

「で、でもさ、僕らの年齢で一緒にお風呂ってのはマズいよ」

「それじゃ、目の前でオナニーして見せて」

「な、何、言ってんだよ!中学生に向かって」

「だって、幼馴染の男の子とは一緒にお風呂に入ってオナニーの見せ合いやったんでしょ?」

「……どうしてそれを?」

「母親にバレてないワケないでしょ。心配してたわよ。うちの子はホモじゃないのかって」

「……」

 友也の頭の中で様々な物がグルグルと回転していた。

 まさか、バレてるとは思わなかった。

「だからね、お姉さんが何とかしてあげるから」

「うん…」

 ちょっと思考能力の飛んだ友也は素直に頷いた。

 これって犯罪行為なのではなかろうか?

 親が黙認しているとは言っても。


 8月31日。
 夏休み最後の日。
 
 大助と友也は再会した。
 
 僅かの間に随分と変わってしまったような気がする。

「ともや〜!」
「だいすけ〜!」

 二人は抱きしめ逢ってサメザメと泣いた。
 

 前日、二人はお互いの『無理矢理彼女』に恐ろしいことを宣言されていたのだ。

「友ちゃん、私、大学中退して働こうかと思うの。で叔父さんの家、
 つまりと友ちゃん家に下宿することにしたの」

「私と結婚すると友也くんと親戚になれるのよ。友也くんって私のイトコのイトコなのよ」

 明日からは複雑な新学期が始まろうとしていた。


 取り敢えず、大助と友也は風呂に入ってから考えることにした。
 
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