赤いズボンの男の子1

2000/5/11UP

(解説)
作者の思惑を超えて絶大な人気を誇る『あきらくん』。
勝手に歩いて話を作ってくれる困った子です。
なお、発掘されたアイデアメモによると「お姉ちゃんとお出かけ」というタイトルを考えていたらしいです。



「あ~きらく~ん」

 おねえちゃんがボクを『君づけ』で呼ぶのは怒っている時だ。

 あ、あの、ボク用事があるから……

「待ちなさい」

 逃げようとしたボクをおねえちゃんがガッシリと捕まえる。

 シャツのえりをつかむのはやめてほしい。

 ネコじゃないんだからさ。

「バカ、ネコはシャツなんか着てないわよ。そんなことだからこんな点数になんのよ」

 おねえちゃんは、ボクの目の前で隠しておいたテスト用紙をヒラヒラとさせる。

「あきらくんが九九を覚えるのに、見たいテレビもガマンしてつきあってあげた、
 おねえちゃんの立場はどうなるのかな~。
 な~んで七の段から先がわかんなかったのかな~」

 ご、ごめんなさい。

 でも、夜おそくまで勉強させられたからテストで寝ちゃったんだもん。

「おねえちゃん、言ったよね?満点じゃなかったらお仕置きするって」

 え~ん、だから隠したのに~。

「な~にがいいかな~?」

 おねえちゃんは、ニヤニヤと笑いながらボクを見る。

「おうふくビンタがいいかな~?それとも、オシリぺんぺんかな~?」

 い、痛いのはヤだ。

「うーん、カワイソウだから、もっと軽いので許してあげる。おねえちゃんの部屋まで来なさい」

 ボクは逃げ出したいのをグッとガマンしてトコトコとついていく。

「このズボンって、あきらくんに似合うと思うんだ」

 げっ!

 真っ赤な半ズボン?

 女の子みたいじゃんか。

「赤なんて戦隊もののリーダーみたいでカッコいいじゃないの。
 女の子みたいっ言うのは、こういうのよ」

 うわ~っ、ピンクのシャツ。

 あの…それも着なくちゃいけないの?

「うん、あきらに着せようと思って友達からもらってきてあげたんだから」

 もらってこないでよ~。

「あ~、そんなこと言うの?これってお仕置きだったわよね?」

 うわ~ん、また変なこと思いついた顔をする~。

「パンツ脱いで、直接ズボンはいてね」

 え~っ、ヤだよ。恥ずかしいよお。

「イヤなら別のにしようか?オシリぺんぺん100回とか」

 わ、分かったよお。

 ……シャツもズボンもブカブカ。これじゃ手で持ってないとズボンが落ちちゃうよ。

「コレ使いなさい」

 サスペンダー?

 確かにズボンは落ちないけど、下からも上からもスース―する。

 なあんにも着てない、裸んぼみたいな気がする。

「さ、出かけるわよ」

 こんな格好で外に出るなんて~。

「文句言うと、フリフリのスカートをはかせるわよ」

 わ、わかったよお。

 ボクとおねえちゃんは電車に乗った。

 近所を散歩して終わりかと思ったら、服をくれたお友達に見せに行くんだって。

 おねえちゃんのお友達ってことは、20才ぐらいなのかな?

 きっさ店をしてる人なんだって。

 カランコロン。

「元気~!」

 おねえちゃんがお友達に声をかける。

「わ~、ホントに弟に着せちゃたんだ」

「うん、似合ってるでしょ?」

「カワイイ、カワイイ」

カワイイってほめられて、ボクの顔はちょっと赤くなった。

 だって、すっごい美人のおねえさんなんだもん。

 この服って、このおねえさんが小さい頃に着てたのかな?

「ピンクのシャツはそうよ。でもズボンは弟がはいてたの」

 ふ~ん、うちとおんなじで弟さんがいるんだ。

「でも、あきらくんみたいにカワイクなかったな」

 おねえさんは、ギュッとボクを抱きしめてホッペタにチュウをしてくれた。

 エヘヘ……
 
 こんなおねえちゃんならよかったのに。

 ジュースも出してくれたし。

「ねえ、カウンターの方に座らない?その方がカワイイから」

 うん!
 よく分からないんだけど、おねえさんに持ち上げてもらって
 足が下に届かないイスに座った。

 おねえさんはカウンターの中から出て、おねえちゃんの隣に座る。

 ふたりでボクを見上げるような感じだ。

 背が高くなったみたい。

 ……大きくなったみたいで気分がいいんだけど、ちょっと困ったこともあった。

 おトイレに行きたい。
 調子にのってジュースをいっぱい飲んじゃったから。

「あら?おしっこ?」

 なんで分かったの?

「あきらってばモジモジしてるんだから分かるわよ。それに……」

「あきらくんって、パンツはいてないでしょ?ズボンの下から大きくなってるの見えるの」

 ボクは顔を真っ赤にした。

 そうか、それでボクの方を見てニヤニヤしてたんだ。

 ニッコリ笑いかけてくれてるって思ってたのに、笑われてただけだったんだ。

 ボクは大あわてで、イスから下りようとした。

 あっ…

 イタたたたた……

「あらあら、大丈夫?痛くなかった?」

 イタいよお~。

 思いっきりぶつけちゃった。

「あきら…あんたねえ……」
 
 え?あ~あああああああああああああああ……

 おねえさん、あっち行って~。

 おねえちゃ~ん、なんとかして~!

 ボクのズボンはグッショリと濡れていた。

 足をぶつけたはずみでモラシちゃったんだ。

「おねえちゃ~ん、どうしよ~?」

「どうしようたって……」

 おねえちゃんも困っている。

「二階から着替えを持って来てあげるから、そこのオシボリでふいておいてあげて」

 おねえさんは、そういうと大急ぎで走って行った。

「バカ、小学生にもなってオモラシなんかしないでよね」

 だって、おねえちゃんがヘンなこと言うからだい。

「すぐにそうやって人のせいにする~」

 だってだって……

「ほら、じっとして」

 く、くすぐったいよお。

「ふう、パンツを脱がせたのは失敗だったわね。ズボンがグショグショじゃないの」

 ご、ごめんなさい。

 あやまるから、かくすもの貸してよお。はずかしいよお。

「ごめんなさい、あきらくんに合うような服ってないのよ。
 お隣のコンビニでパンツだけは買ってきたんだけど」

 おねえさんは、すまなさそうにパンツを差し出す。

「ほら、この前に整理につきあった時に、あんたが着てた服が出て来たじゃないの。
 あれもうないの?」

「あるけど、あれは……」

 何かを言いかけたおねえさんをおねえちゃんが止める。

「あきら、このさいどんな服でもいいわよね?」

 うん、パンツ姿や、おもらしズボンで帰るのはイヤだもん。

               *
               *
               *

 ……確かに、何でもいいって言ったけどさ。

 コレはあんまりじゃないの?おねえちゃん。

 おねえさんも笑ってるし。

「あきらくんってスカートも似合うのね。女の子みたいよ」

 ぼくは怒るに怒れず、スカートをはいて家に帰った。

 近所で友達にバレると恥ずかしいから顔が見えないように、
 マンガの美少女みたいな大きな帽子を借りた。

 大きな白い帽子に、ピンクのシャツ、そしてヒラヒラのスカート。

 そのカッコは、とっても目立ったみたいで、
 道を歩く人がジロジロと見ているような気がする。

 ……ボクだってことはバレなかったみたいだけど。

 男だってことはバレちゃったみたい。

 だって、知らない子にスカートをめくられたんだ。

 とってもドキドキした。

 ねえ、おねえちゃん。この服もらったらダメかな?

 それから……おねえちゃんのパンツも欲しいな。

 それとも、はいてない方がいいと思う?

 ねえ、おねえちゃんってば?

 どうしたの何か言ってよ?

 ねえってば。

  

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