赤いズボンの男の子8
2001/4/15UP
(解説)
またも赤いズボンを履かないあきらくん。
おねえさん好きだという性格が殆ど確定的になって来ました。
でも、一番はヒロシにいちゃんらしいです。
いいんだけど、電車で行かなきゃならない喫茶店に入り浸る7歳児って(笑)
「アッくんってば、うちに来ればどんな服でもあると思ってない?うちは喫茶
店屋さんであってイメクラ……じゃなくってコスプレ屋さんじゃないんだって
分かってる?」
無いの?
「いや、ある
んだけどね……」
じゃあ、貸して。
「でも、ちょっと大きいかもしれないし……」
貸して、貸して、貸して、貸して、貸して。
ボクは床に転がると足をバタバタさせた。
最近覚えた必殺ワザ『駄々っ子』のポーズ。
おねえちゃんには通じないんだけどおねえさんやヒロシにいちゃんそれに、
お父さんはこうすると大抵のワガママは聞いてくれる。
おねえさんは、ため息をつくと2階から衣装を持って来てくれた。
「劇で使うだけにしてね。コレ着て遊びに行っちゃダメよ」
うん。
「ひかりから、あまりヘンな格好をさせないでくれって言われてるし」
えーと、怪獣パジャマのままでお客さんの注文を取りに行っちゃたこと?
それとも、ウサギさんのヌイグルミ着たこと?
「……他にも色々と」
おねえさんは遠くを見るような目つきになった。
スカートを履かせたのはおねえさんとおねえちゃんだよ。
いくらボクでも透け透け、ヒラヒラはヤだもん。
「ちゃんと似合ってるところが怖いんだけど」
ねえねえ、そんなことより、この服ってどうやって着るの?
四角い皮が何枚かとヒモが何本かあるだけ?
ボタン付いてないよ?
でも、ネコさんの耳やしっぽもちゃんとあるね。
「口で説明すると難しいから着替えさせてあげる」
うん。
おねえさんは、店の前の札を『OPEN』から『CLOSED』に直す。
お客さんがたくさんいる時は、全部の席が埋まるのに、ボクがおねえさんに
頼み事したいなあって思う時は誰も居ない。
おねえさんは笑って「喫茶店っていうのはそういうものよ」って言ってた。
でも、ここで言えば、本当にどんな服でも出てくる。
ヒロシにいちゃんが着てた服ばかりらしいんだけど全部取ってあるんだもん。
ネコの格好なんて絶対に無いって思ったのに、ちゃんとあったんだ。
クラス発表の劇で、ボクはネコの役をやることになったんだ。
苗字が『子子』だからって理由だけで。
あれ?ボクの名前って教えてなかったっけ?
『ここ』とか読まれちゃうことが多いけど、『ねこ』って読むんだ。
『子子あきら』がボクのフルネーム。
あきらは漢字じゃなくって、ひらがななんだ。
おねえちゃんの『ひかり』もひらがな。
たまに『ひかる』って呼ばれるととっても怒る。
「着てる物、全部脱いでね」
おねえさんは皮の横に一杯空いた穴にヒモを通しながら言った。
うん。
ボクは、するすると服を脱いでパンツだけの格好になる。
「あら?パンツも脱がなくちゃダメよ」
え〜、なんで?
「このズボンって、2枚の皮をヒモでしばるようになってるの。横からパンツ
が見えたらカッコ悪いでしょ?」
あっ、ちょ、ちょっと。
自分で脱ぐからパンツに手をかけないでったら。
おねえさんってヤらしい。
女の癖にヒロシにいちゃんみたいなことしないで。
上着もズボンと同じように2枚の黒い皮をヒモでしばるようになっている。
「で、このネコ耳を頭に付けて……アッくんお尻こっちに向けて」
安全ピンでズボンにしっぽを付けてくれる。
あ痛っ!
「あ、ごめんなさい。ちょっとピンで突いちゃったみたい」
もう、そそっかしんだから。
「はい、これでネコくんの完成」
肌に直接触れている皮の感触が冷たい。
下の方なんか直接、ファスナーの金具に当たるからちょっとヘンな気分。
どれどれ。
鏡で見ると、ちょっとだけ大人っぽい黒いネコだった。
しっぽにはバネが入っているらしくってピョコンと上を向いていて、ボクが
歩くとピョコピョコって左右にゆれる。
あははは、おもしろ〜い。
「よしっと。ちょっと大き目だけどヒモだから何とかなってるわね」
ところでさ、この服って何の服なの?
「ヒロシがね、中学生の頃にヘビメタやるって言い出して買った衣装なの」
ヘビメタって?
「そーいう格好をして、楽器を演奏したりする人のことよ」
バンドって奴?
ヒロシにいちゃんって楽器もできるんだ。
「できないの。たて笛だって吹けないのに。歌も音痴だし。だから買っただけ」
ふーん。
ボクにはよく分からなかったんだけど、『はんこうき』には、そういうことを
したくなるものなんだって。
でもヒロシにいちゃんって中学の頃はチビだったんだね。
ボクだってクラスじゃ大きい方じゃないのに、ちょっとブカブカなだけだよ。
「ヒロシの前で言っちゃダメよ。今でも背が低いの気にしてるんだから」
は〜い。
「あ、大事な物を忘れるところだったわ」
おねえちゃんはそう言いながら大きな金色の鈴の付いた首輪を結んでくれた。
コロコロコロコロ……
首をコクコクってすると、きれいな音がする。
「これで、黒ネコくんの完成ね」
ちょっとうれしくて店の中を飛びはねてみた。
鈴がチリチリと音を出して、しっぽがビョンビョンとゆれる。
「アッくん、ちょっと大きいからあんまりハデに動くとズボンが落ちるわよ」
注意してくれるのがおそいよ。
皮のズボンがズルっと脱げてズテンと転んだのはその直後だった。
カランコロン。
店にお客さんが入ってきたのはおねえさんがもう落ちたりしないようにって
ヒモを固く結び直してくれている時だった。
二人で声を揃えて「いらっしゃいませ!」って叫ぶ。
店に入ってきたのは、制服姿の女子高生のおねえさんが5人。
テーブルは4人用だから椅子を1つ運んであげる。
「カワイイネコちゃんね」
へへへ、頭を撫でてもらっちゃった。
えーと、ご注文はお決まりですか?
「あれ?ネコくん伝票持ってないよ」
覚えるから大丈夫です。
「コーヒーの名前ってややこしいよ?」
種類だとブルーマウンテン、コロンビア、モカ、キリマンジャロ、サントス、
グァテマラ、コロンビア、マンデリン、コナ、前はコスタリカ・カフェ・ボニ
ータなんかもあったんですけど今は置いてません。濃さはエスプレッソ、レギ
ュラー、アメリカン。他にウィンナコーヒーとかシナモンコーヒーなんかもできます。
「へー、良く覚えてるね」
はい、商売ですから。
カウンターの奥では、おねえさんがクスクス笑ってる。
えーとね、そっちのおねえさんはいつもブルーマウンテンを注文してるし、
こっちのおねえさんはこの間はコナだったけどその前はエクアドル・アンデ
ス・マウンテンでした。
女子高校生のおねえさんは目を丸くする。
「覚えてるの?」
はい。キレイなおねえさんだけ。
何度か店に来てくれたおねえさんが頭を撫で撫でしてくれる。
えへへへへへ
「ね?賢い男の子がいるって言ったでしょ?」
それからおねえさん達は、5人で同時に別々の注文をした。
でも、練習したからちゃんと誰が何を注文した分かる。
間違えずに全部をテーブルに置くと拍手してくれた。
「すごーい、しょうとくたいしみたいだね」
「わたしなんか自分が何を注文したかも忘れてるのに」
へへへのへ。
ちょっと得意。
でもインチキしてるの。
ボクは匂いや色で区別できないから種類毎にカップの種類が違えてあるんだ。
「ネコくん、ネコくん、のどをなでてあげる」
ゴロゴロゴロ。
「きゃ、カワイイ。もってかえりた〜い」
「ズル〜イ、わたしが持って帰るの」
「あたしなんか、一緒に寝ちゃんだもんね」
「じゃあ、わたしはお風呂にはいるもん」
「わたしなんかトイレも一緒なの!」
あの〜、ボクは売り物じゃないんでテイクアウトできません!
「じゃあね、お菓子あげる」
ゴロゴロゴロ。
「ミルクもあげるね」
ホントのネコじゃないんだからお皿からミルクは飲めないよ。
あ、やめてやめてしっぽ引っ張んないで。
ほっぺたもグニグニしちゃダメ。
わーん、頭グリグリもなしだってば〜
カランコロン。
「あき坊、今日の格好は一段と凄いなあ……」
常連客の佐藤さんだった。
ブレンドとハムサンド(キュウリ抜き)
いつも同じだから注文を取る必要が無い。
ボクがオーダーの品を持ってくると佐藤さんはボクをダシにして女子高生の
おねえさん達とおしゃべりしてた。
「あき坊は、ピンクの服が好きで、最初見た時は女の子だと思ったんだよ」
「あ〜、分かる分かる。すっごくカワイイ顔してるもん」
「ズボン脱いでくれないと男の子かどうか分からないわよね」
じっと見たって脱ぎません!
「あまりまともな格好してるの見たことないなあ」
そうかな?
ボクとしてはちゃんとした格好してるつもりなのに。
「カワイイ男の子が昼間っから黒い皮の服着てネコ耳付けて接待してくれる店
なんて他に無いよね」
「やだ、おじさんってそーいう店に詳しいんですか?」
「キャバクラとか、イメクラとか、ノーパン喫茶とか?」
「パンツならあき坊くんも履いてないよ」
6人の視線がボクの下半身に集中する。
「あ、全然気が付かなかった」
「そうか、白いのが見えたらカッコ悪いから脱ぐんだね」
「あんたよく気が付いたわね。さすがショタコン」
皮の間から見えるからパンツを履いてないってことは分かるんだ。
「あ〜、真っ赤になった。カワイイ〜」
は、恥ずかしいよ〜
「あんまり、からかっちゃ可哀想だよ。困ってるよこの子」
「じゃあ、おねえちゃんがパンツ履かせてあげるとするか」
「だから、からかうんじゃないっての!」
カウンターでお代わりのコーヒーを煎れていたおねえさんが助けてくれる。
「今日は、たまたまそんな格好してるだけだし、この子は知り合いの子なんで
いつも居るってワケないんですよ」
「でも店の名前はケット・シーだし、ママの名前も『子子子(ネコシ)』だから
ピッタリじゃない」
と佐藤さん。
「『ネコシ』?」
「そう変った苗字だろ?子供の子を3つ書いてそう読ませるの。だからネコの
子供なんてピッタリだろ?冗談みたいな話だけど、あき坊の苗字も子供の子を
2つ書いて『子子(ネコ)』なんだ」
女子高生のおねえさん達は笑い転げる。
「ほんとにネコくんなんだ」
「ヘンなの」
そんなにおかしいかなあ?
カランコロン。
「アッくん、その格好……」
ヒロシにいちゃんが帰ってきた。
あっ、ボク用がありますからこれで。
よかった。
おトイレに行きたかったのに、おねえさん達ったら首をつかんだり、しっぽ
をつかんだりして行かせてくれないんだもん。
もじもじしてたら、「おねえちゃんが、させてあげようか?」なんて笑うし。
このズボンって前がキツイしさっきからちょっと痛かったんだ。
…………
あ、あのヒロシにいちゃんお願いがあるんだけど?
「なんだい?そんな格好してまでするお願い事なんて新しく出たゲーム機でも
買って欲しいとか?」
ううん。
ズボンを脱がせて欲しいの。
あ、あのね、チャックが開かないの。
脱げないようにっておねえさんが堅くしてくれたからボクの力じゃヒモが
解けないの。
「もちそう?それとももう出ちゃいそう?」
か、かなり危ない。
「そりゃ大変だ!」
ヒロシにいちゃんは、ボクをお風呂場に連れて行った。
「いいからとりあえず、しちゃって」
ここで?
おもらしするのヤだよ。
「これ無茶苦茶な結び方してあるから解いてたら何分もかかるよ。だから先に
スッキリしてから解こう」
ボクは漏らすまいと頑張ったんだけどヒロシにいちゃんは、お風呂場だから
大丈夫、安心して漏らせって言うし、皮の上からおちんちんをゴシゴシした。
だから…
しゃーって音を立てて漏らしちゃった。
おしっこは、一度お腹のへんまで上がってきてそこからあふれるようにして
ズボンの上の方やヒモのすき間からこぼれて床に落ちる。
ポタポタじゃなくって、じょわーって感じ。
体が生温かくなって、なって……
大丈夫、大丈夫って言われる度に情けなくなってくる。
結局、ヒモは解けなくってハサミで切った。
ズボンだった皮は、ばさっと床に落ちる。
同時に、前とお尻がスースーした。
劇の衣装どうしよう?
クンクンしたけど、おしっこ臭い。
耳としっぽは残ってるけど、ズボン無しじゃ……
「普通のズボンに耳としっぽじゃダメなの?」
あ、そうか。
ヒロシにいちゃんってやっぱり、たよりになるや!
何日かしてボクは、耳としっぽだけを付けて劇に出たんだ。
でも、ウケがよかったんでおねえさんとの約束を忘れてて付けたまま電車に
乗って店まで来たんで怒られちゃった。
「な、あき坊、バニーガールの格好してみない?」
「佐藤さん、アッくんは着せ替え人形じゃないんですよ。大体どこからそんなの
持ってきたんですか?」
「ん?ヒロシくんに言ったら貸してくれたよ」
やっぱり、ヒロシにいちゃんもおねえさんもちょっとヘン。
なんでヘンな服ばっかり持ってるんだろ? |