ゆっくんと僕2001/6/15UP 僕は、ゆっくんが産まれた時から、いやお腹の中に入る前から知っている。 ゆっくんのお母さんと僕は友達だったから。 だから、ゆっくんのことは何でも知ってるんだよ。 5歳、去年までおねしょしてたことも。 せっかく、夜のおむつをトレーニングパンツにしてもらったのに、サイズが合わ なくなって、おむつに戻されちゃって泣いて抗議したことも。 あんまり怒るもんだからお母さんがパンツだけで寝かせたら見事な世界地図 を描いてしまって、お尻をペチペチされたことも。 僕がそのことを持ち出すと真っ赤になって怒ることも。 でも最近のゆっくんはちょっと反抗期。 お母さんに逆らうとお尻をペチペチされるから、その分僕に当り散らす。 僕は笑うだけで済ませちゃうからね。 でもね、僕だって時には君に意地悪したい気分になることだってあるんだよ。 今日は、ゆっくんと僕とでお留守番。 正確には、お母さんがゆっくんを連れて行けないんで僕が世話を頼まれた。 口では偉そうなことを言っててもまだまだ子供。 お母さんも誰も居ないお家で寝るのは怖いらしい。 世話って言っても、僕が頼まれたのは食事の手配と寝かし付けることだけ。 夕食はファミレスに食べに行ってもよかったんだけど、ゆっくんが服をベタ ベタにしちゃうような気がしたので、二人でテクテクとほか弁を買いに行った。 「な、手つなごうか?」 と僕。 「や」 とゆっくん。 このところ会話が素っ気ない。 「どうして?幼稚園の頃はつないでくれって言ってたのに」 「もう大人だもん」 「でも、女の人とはつなぐよね?」 「男は女としかつながないの」 笑ってしまうような子供の理屈。 何年かすれば、今のお姉さん好きがウソのように女の子を拒絶する癖に。 男の子だもんな。 そういえば僕の小さい頃はどうだったんだろう? 近所の女の子と遊んだ記憶はあるけどよく覚えてないや。 ゆっくんも僕と遊んだことなんか忘れてしまうんだろうか? そう考えるとちょっと寂しいけど、ゆっくんは何も考えずにトットコと歩い て行く。 「ハンバーグ弁当の大盛り!」 彼はご馳走と言えばハンバーグしか知らない。 食生活は豊富な筈なのに、何かと言うとハンバーグだ。 「お子様弁当は?」 僕は意地悪で言ってみる。 「もう1年生だもん」 お子様弁当だってハンバーグがメインだ。 それでも背伸びして、ハンバーグ弁当の大盛りなんて注文してる。 大盛りってのはご飯が大盛りなんであってハンバーグが大きいんじゃないんだよ? 知ってるのかな? 結局は僕が残ったご飯を食べる羽目になるんだろうなあ。 「じゃあ、ハンバーグ弁当を大盛りと少ない盛りで」 「大盛りだってば」 「少ない盛りは僕の分」 「食べないと大きくなれないんだぞ」 はいはい。分かった分かった。 僕は弁当とコーラのペットボトルを買った。 ゆっくんは、体に良くないからってあまり炭酸を飲ませてもらえない。 だから、妙に嬉しそうな顔をしている。 本人は澄ましてるつもりだろうけど。 それにしても好物を食べている時の子供は本当に楽しそうだ。 見ているだけでこっちのお腹がいっぱいになるような気がする。 「対戦しよ」 食べ終えるとすぐにゲームをやりたがった。 相手をしてやってもいいんだけど、僕はちょっとだけ意地悪をして遊びたく なった。 「いいけど、お行儀よく座ってな」 僕は、ゆっくんを畳に正座させる。 「それとも子供には無理かな?」 「で、できるに決まってるだろ」 僕は心の中でニンマリした。 あと30分ぐらいかな? 久し振りにゆっくんの泣き顔が見られるのって。 ゲームは僕も下手糞だけど相手はこの間まで幼稚園児だったような子供だ。 勝ったり負けたりで、ゆっくんは夢中になっている。 30分はとっく過ぎ去ったが何のリアクションもない。 いつの間にか僕もゲームに熱中してしまっていた。 6歳児を相手に情けない話だが本当に互角だったのだ。 どれぐらい経った頃だろう? ゆっくんの腕が急激に衰えてきた。 凡ミスを連発する。 あれ?っと思って眺めると足をモジモジとさせている。 足が痺れたんだ。 僕は小さい頃から算盤塾で鍛えてたから3時間ぐらいなら平気だが彼はそう いうワケにはいかないのだろう。 ふふふのふ。 でも、別の原因でもモジモジしてるんだよね。 「おしっこ!」 一勝負が終わった時、ゆっくんは立ち上がろうとした。 ズテン。 が無残にも足がもつれて歩くことができない。 ジュワ〜 と小さな音がしてズボンが濡れていくのが分かった。 「み、見んなよ〜」 調子に乗ってコーラ飲んでたもんね。 ゆっくんはその場を離れようとするんだけど足が痺れてロクに動けない。 僕は、わざと恥ずかしがるような格好、赤ちゃんにおしっこをさせるような 格好で男の子を抱えるとお風呂場に運んだ。 「はい、まだ出るようだったらやっちゃてね」 「ズボンのままおしっこなんかできないよ〜」 「もう漏らしてるんだから同じだよ」 ゆっくんは泣き顔だった。 泣きながら濡れたズボンとパンツを脱ぎ捨てる。 何年振りかな? ゆっくんの生の下半身を見たのって。 僕は、バンザイをさせるとシャツも脱がして素っ裸にしてシャワーで全身を 流してやる。 洗ってやろうとしたんだけど正気に戻ったゆっくんのガードは固かった。 そしてタンスから自分でパンツとパジャマを出して着替えてしまった。 「自分のことは自分でやろうね」 自分がおもらしした個所を恥ずかしそうに雑巾で一生懸命に拭き取る姿は、 抱きしめたくぐらいに可愛かった。 でもちょっとからかい過ぎたんで、ゆっくんは寝るまでテレビを見ていて、 相手にしてもらえなかった。 「おもらしぐらい小学生でもするよ」 「うるさい」 「なあ、お母さんには言わないから」 「うっさい」 「ねえねえ」 「うっとーしいから帰れ」 「コーラの残り飲んじゃう?」 「飲む!」 彼がうつらうつらして来た頃を見計らって布団の中へと運ぶ。 一緒に寝たい気もしたんだけど、もうすぐゆっくんのお母さんが帰ってくる。 入れ違いに退散するとしよう。 翌日。 僕は、ゆっくんのお母さんから電話を受けた。 「夕べはありがとう。でも……」 「なんかあった?」 「あんた甘やかしてジュース飲ませ過ぎたんじゃない?」 「……ちょっと飲ませ過ぎたかも」 「あの子、久々におねしょしちゃって落ち込んでたわよ」 やっぱりやったか。 コーラを飲ませたらやるんじゃないかと思ったんだ。 今度、留守番を頼まれた時は、うんとからかっておむつをあててやろうっと! |