忘れ物

2005/04/03UP


 しまったっ!パンツ穿き忘れたっ!!

 間抜けな失敗をした俺に美咲ねえちゃんが微笑む。

「どうしたの祥太郎くん?」

 まさか、本当の事は言えない。

「い、いや、なんでもない・・・」

「早く行かないと映画始まっちゃうよ」

 歩いていると足元がすーすーする。
 パンツを穿いてないとこんなに情けない感じなんだ。

 二人は恋人同士には見えない。
 俺は母ちゃんの趣味で時代錯誤の半ズボンに野球帽。
 鼻にはバンソーコーまで貼っている。
 どう見てもワルガキとお姉さん。
 大好きな美咲ねえちゃんと初デートなんだから、もっと今風の格好でお洒落に決めたかったのに。
 母ちゃんはセンスないからなあ。
 俺ぐらいだよ。
 いまどき、親戚の兄ちゃんのおさがりなんか着せられてるのって。

 そうだ。
 母ちゃんが悪い。
 起こしてくれって頼んだのに日曜だからって起こしてくれないし。
 風呂上りにパンツが無いって言ったのに寝るだけだからって直接パジャマを着せるし。
 お陰で大慌てでズボンを穿いたらパンツを忘れた。

 美咲ねえちゃんの前でノーパンなんて最悪。

「半ズボンって恥ずかしい?」

 俺が少し顔を紅くしてるのを見て美咲ねえちゃんが訊ねる。
 視線を合わせてくれるのは嬉しいんだけどしゃがまれるのは嬉しくない。

「ううん・・・」

「よかった。今の子は嫌がるって聞いたから。そのズボンうちのお兄ちゃんが穿いてたやつだから流行遅れもいいとこだしね」

 ズボンを見るのはやめてほしい恥ずかしいから。

「・・・あのね、映画の前にコンビニに寄ろうか?」

「お菓子とコーラなら映画館でも買えるよ」

 美咲ねえちゃんは恥ずかしそうに小声で俺に囁いた。

「パンツ買ってあげる。祥太郎くんパンツ穿き忘れてるでしょ」

 な、なんで?
 なんでバレてるの?

「祥太郎くんていつもズボンの裾からトランクスが食み出してるから・・・・・・
それに・・・なんか今日は・・・その・・・祥太郎くんのって大きい・・・・・・」

 だあああ〜っ、なにかもぜ〜んぶ母ちゃんが悪いっ!
 コンビニのトイレで買ってもらったブリーフを穿きながら思った。
 でも、これって美咲ねえちゃんが俺の為に買ってくれたんだよな。

 ちょっとだけズボンの下に愛を感じた。

 そんな俺の初デートでした。 

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