ぼうけんき
第1話(前編)『はじまりの冒険は裸で』

2005/04/21UP・2010/04/24修正


RPGのようなファンタジーの世界。
そこに3人のショタっ子がおりました。
 
黒髪に黒い瞳の少年はアイン。
単純お馬鹿な騎士見習い。
薄い赤毛に薄い赤目の少年はツヴァイ。
家事が得意な盗賊風味の魔法使い。
金髪碧眼の少年はドーリー。
甘えん坊の精霊使い。

 それは冒険者ですらない彼らの無軌道な冒険の物語。
 ・ ・・になるといいな。


「アイン、ぼく君のことが好きっ!」

金髪碧眼の可愛い子にそう言われて何も感じない筈はない。
例えそれが男だと分かっていてもだ。

「ま、待てドーリーっ、お前っ変な魔法にかかってないか?」

告白された相手、黒髪に黒の瞳の少年は鞘に入れたままのショートソードで美少年の唇を遠ざけながら言った。

「ダメだよ。幾らドーリーでもアインは譲れない。僕のだ」

薄い赤毛に薄い赤目というちょっと珍しい配色の少年が割って入る。

「・・・ツヴァイ、なんだよお前までっ」

とろんとした瞳の二人は明らかに正気じゃない。

「フクヲヌイデセマレバイイ。ソノコノフクモヌガセテ」
 
姿の見えない声が提案する。

二人の少年は軽くコクンと頷くとゆっくりと服を脱ぎ始める。

残った1人の少年に見せつけるように艶っぽい脱ぎ方で。

「ねっ、綺麗でしょ?ぼくの」

ドーリーの華奢な体は胸の小さな女性のようにも見えた。

「僕の裸は?エロい?感じる?」

年齢の割には長身なツヴァイの体は年齢よりも幼く見えた。
 
「敵のど真ん中で装備を外してどうすんだよっ!」
 
少しドキドキしながらアインが叫ぶ。

「ぼくがアインを脱がしてあげるね」

「僕が脱がすに決まってるだろ!」

「ばか〜っ、下から脱がすなあ〜っ!!・・・そんなとこ触るなあぁぁぁ」

ごそっ、ごそっ

何かが近づいて来る。

どてっ!

「・・・」
「・・・」
「・・・」

三人は顔を見合わせる。

「なんだ?」

「勝手に死んじゃったね」

「ゴブリン?ちょっと違うかな?」

そこには滑って転んで頭を打って死亡した妖魔の死体が転がっていた。

「まあ、こんなのどうでもいいから続きをやろっ!」

「だからっ、アインの初めては僕なんだってば!!」

「さっさと服着ろっ!」

このゴブリンの他にも敵がいるかもしれない。

そもそも都会の真ん中にゴブリンが巣食っているというのも妙な話なのだが実際にいた。

大人は誰も信じなかった子供達の噂話。

噂ではバンパイヤやらドラゴンもいるらしい。

怪物の気配・・・を感じられる程アインは熟達していない。

そもそも騎士見習い、いや見習いの見習い。

正式に剣を教えてもらったこともなく今は教養ってことで街の魔法使いに読み書きを習っている段階なのだ。

ツヴァイはその魔法使いの名ばかりの住み込みの直弟子。

実際には家事担当。

高名な魔法使いの家系の末っ子で初歩魔法が使えたのが却ってマズかったらしく肝心の魔法はあまり教わっていない。

そしてドーリーは二人の師匠の義理の息子である。
大精霊の加護を受けし天才児。
亡くなった両親はドルイド僧だったらしく治癒系の魔法を得意としている。

「俺のパンツを取り合いするなぁぁぁ〜っ」

「ぼくがアインのパンツを穿くのっ」

「僕が先に取ったんだ!」

 びりっ。

「ズ、ズボンの方は勘弁してくれよ」
 
ぬちょぬとっぬるっ・・・

大騒ぎする3人の背後で奇妙な音がした。

「あ〜っ、スライムだ〜っ」

ドーリーがすっとんきょうな声をあげる。

粘液状の生物が数匹、脱ぎ捨てられた3人の服と装備に絡み付いている。
 
「俺のズボン・・・」

アインは情けなさそうに呟くと更に言葉を続けた。

「ツヴァイっ!火を出してあいつを燃やしちまえっ!!」

すると頭を掻きながら魔法使いが答える。

「無理。発動体の杖もあいつが溶かしちゃったから」

「どーすんだよ。なんか剣で切っても分裂とかしそうな感じだぞ」

ズバッ!

ぱかっ。

試しに切ってみるがやっぱり分裂してしまう。

「ダメか・・・ドーリーっ精霊魔法とか使えないのか?発動体とか要らないんだろ?」

「えっとね、ここには使えそうな精霊がいないんの。それより、貸してよそれ」

少年が碧い瞳を輝かせながら剣を奪い取る。

「ふふふっ、アインの持ち物はショートソードっ!」

「人の股間を見詰めながらおかしな言い方するなぁ!!」

紅い眼の少年はその股間の付近を眺めた。

「なんでもいいけど大事なとこにスライムが付いてる」

「わあああああ、なんとかしろおおおおおっ」

こくんと頷いたドーリーは無茶苦茶に剣を振り回す。

「ばか〜っ、数が増えるだけだからやめろ〜っ」

「アイン、ずっと怒鳴ってるね」

ツヴァイが呑気そうに口にする。

「誰のせいだと思ってんだ誰のせいだと」

アインはお尻の穴に潜り込もうとしているスライムを剥がしながら言った。

「ドーリーも増やすのやめろっ!」

金髪の少年は半狂乱状態で剣を振り回している。

危なっかしい上に斬られたスライムがパカパカと増殖していく。

既に部屋はスライムで充満しようとしていた。

「さてとどうしたもんかな・・・」

赤毛の冷静な少年は呟いた。

がちゃ。

ツヴァイは部屋の扉を開いた。

スライムの群れは再びひとつにまとまりながら出口へと殺到する。

「うえっ、気持ち悪いよぉ〜っ」

アインがベソを掻いていた。

下半身にスライムがこびりつき透明のパンツを穿いているように見える。

「ツヴァイ〜っ、取ってよ〜っ・・・こいつ俺のおしっこの穴にっ!」

「死にはしないからそのまま待ってな先にドーリーを何とかするから」

ツヴァイは無意味に剣を振り回すドーリーの攻撃?を軽く避けながら腹部に重々しい一撃を加えた。

「ぐっ・・・」

金髪の少年はあっさりと気を失う。

「ホウ、モウミリョウノマホウガトケタノカ?」

何処からともなく声がする。

「お蔭さんでな。危うくアインみたいなボケに僕の大事なもんをやっちまうとこだった」

「シカシ、オマエモデンセツノニンジャデハナイ」

忍者。
暗殺者の頂点。
いかなる敵も一撃で死に至らしめる存在。
あらゆる魔法を跳ね返し、重い装備すら不必要。
いや、重く窮屈な装備は却って彼の動きを束縛する。
つまり、脱げば脱ぐほど強いのだ。
 
「ツヴァイ・・・気持ち悪い・・・んだけど気持ちいいよぉ」

生物の内部に入り込み中から溶かすと言われる粘着生物はアインの下半身の穴の幾つかから侵入を開始していた。
 
「えっとニンジャの話はちょっと待ってね」

「イヤ・・・チョットマテ」

「ねえ、火持ってない?出来れば松明がいいんだけど」

「アノナ・・・」

「持ってるの?持ってないの?」

「ソノゴブリンガハッカノユビワヲモッテルハズ」

ツヴァイは死体となった妖魔の懐を探った。

「借りるね。早くしないとスライムが戻ってくるから」

そう言うと手早く松明に火を点ける。

「・・・ツヴァイ・・・ちょっと待って・・・」

「なんだよ、早くしないと大事なとこ溶かされて女になっちまうぞ」

じゅっ

「こ、怖いんだってば!!溶けるのもヤだけど熱いのもヤだ!!!」

「お師匠様にお灸を据えられたとでも思えば大丈夫だってば」

「さ、流石に前に据えられたことはない・・・ぎゃあ〜っ!!!!!」

「あ、ごめん。ちょっと焼き過ぎた」

「ハナシツヅケテイイカナ?」

「もうやだっ!俺っ!!」

自称騎士見習いの少年は上着を脱いで腰に巻き付けながら叫んだ。

「冒険ってもっと格好良いもんだと思ってたのにっ!」

裸の少年がそれをなだめる。

「まあ、まあ格好悪いのはアインであって冒険じゃないから」

「素っ裸で言っても説得力ねえよっ」

もう1人素っ裸の少年が目を覚ます。

「・・・あれ?スライムは?」

「そうだ、なんでスライムは行っちまったんだ?」

「スライムはより分裂する空間を求めて広い場所に移動する性質があるんだ・・・って・・・もしかして外へ?」

あんなものが街中へ飛び出したら大変な騒ぎになる。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

目を見合わせる3人。

「こんな格好で外に出たら笑いものだよな」

「しばらく街の噂を独占だろうね」

「そんなのヤだあ〜っ」

ぬちょっ。

残っていたスライムがツヴァイの腹に落ちてきた。

「うわわわわわ・・・っ」

「オマエラヒトノハナシヲキカナイッテチュウイサレタコトナイカ?」

「うえ〜っ、想像以上に気持ち悪い」

松明を持ったアインが邪悪に微笑む。

「スライムは焼いちゃわないとな」

「手で剥がすから大丈夫だって・・・下から近づけるな!」

「ふふふっ、火傷したら勘弁な」

「僕だってそこまでやってないだろっ!・・・ドーリーまでっ」

「ごめん、なんか楽しそうだったから」

ぬちょ、ぬちょ、ぬちょ、ぬちょ・・・

不気味な音と共にスライムの大軍が舞い戻ってきた。

「な、なんで?戻ってくんだよっ!」

「知らないよっ」

「逃げた方がよくない?」

3人は逆の方向にある扉を開けた。

「あ、俺のショートソード」

「諦めろ、安物だろ?」

「騎士団の支給品じゃなかった?」

扉の向こうの部屋には先客がいた。

「ミトメラレタモノイガイハコノヘヤニハイルシカクハナイノダガナ」

それはイソギンチャクに似ていた。
下半身は床に固定され、上半身では無数の触手がウネウネと動いている。

「ツヴァイ、何だコレ?」

「知らない。本で見たこともない」

「もしかしてこの館のヌシとかいうやつ?」

3人は呑気に首をかしげる。

「ワタシハコノヤカタノアルジノキオクヲモツモノ」

「魔法生物なんだ?」

ドーリーが目を輝かせる。

「オマエラミタイナドジッコハオヨビジャナイノダガナ」

「で、なんかくれるの?」

ツヴァイがねだる。

「まず服が欲しいな。スライムってあんたの手下なんだろ責任取ってよ」

「ズーズーシイナ。トイカケニコタエタラナニカヤロウ」

触手さん、結構人(?)が良いらしい。

「タダシ、コタエラレナケレババツヲアタエル。カイラクニナルカモシレンガナ」

触手さんはウネウネと触手を動かしながらアインを指し示す。

「マズハアインカラ」

「・・・全員まとめてじゃないんだ?」

 アインは手招き(触手招き?)されるままに近づく。

「イツマデオネショシテマシタカ?」

「はっ?それが質問?」

「アインクン、イツマデオネショシテマシタカ?」

「謎かけって朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足な〜んだ?とかいうのじゃないのか?」

「イツマデオネショシテマシタカ?コタエラレナイバアイハ・・・」

触手さんはアインを問い詰める。

「えっと・・・5歳ぐらいまでかな?」

「フセイカイ」

ウネウネとした触手がアインを絡め取る。

「うわっ、何すんだよっ!」

「フセイカイ、マダナオッテマセン」

ツヴァイとドーリーが冷ややかな目で見詰める。

「そうなんだ」

「アインと一緒のベッドで寝るのやめようかな?」

触手に持ち上げられながらアインが抗議する。

「なんで知ってるんだよっ、そんなことっ!」

「ア、ホントウダッタンダ」

「インチキかよっ!」

腰にシャツを巻きつけただけの少年は触手に絡まれながら騒ぐ。
 
「ウルサイカラダマッテテクレ」

それに応えるかのように触手が動き口の穴を塞ぐ。

「ぐぐぐっ」

「サワグトホカノアナモフサグ!」

「アインを離せっ!」
「アインを離してっ!」

一糸纏わぬ少年達が声をあげる。

「トイカケニコタエヨ。コタエラレナイナラ・・・」

「でも、こっちが近づかないと触手が届かない」

「あ、本当だ」

「アインはボケだから」

「何も考えずに近づいてたね」

「しばらく放置しとこうか?」

「そうだね、懲りさせないと」

結論は出たらしい。

「うががががが・・・」

「イイノカ?アインヲヨメニイケナイカラダニスルゾ」

イソギンチャクのような生物の触手が更に少年の胴体に巻き付く。

ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐると幾重にも。

別の触手が唯一の装備である腰に巻いたシャツを取り上げると放り捨てる。
 
ドーリーが手を伸ばしてシャツを拾う。

「なんか変な匂いがする」

ツヴァイもシャツの臭いを嗅ぐ。

「・・・アインのシャツだからな」

呑気なことをしている間にもアインは更にぐるぐると巻かれていく。

「ぼく、アインの何処が好きだったんだろ?」

「魔法をかけられたからだろ?」

「それもあるんだけど、ちょっと好きなんだよね。アインのこと」

「一緒に暮らしてるからだろ」

「ツヴァイもアインのこと好きだよね?」

「まあ、嫌いじゃないけど・・・」

「ツヴァイのことも好きだよ」

「誤解を招くような発言はやめろ」

触手さんはアインをコマのように回した。

「あ〜れ〜っ〜」

「ソノアトニオトノサマオヤメニナッテトツヅケルノダ」

赤毛の少年がツッコミを入れる。

「あんた何処の国の出身なんだ?忍者とかお殿様とか」

クルクルと廻りながら向かってくる黒髪の少年を赤毛の少年が受け止める。

「・・・人質、離しちゃったね」

「シマッタッ!・・・マケヲミトメヨウ・・・トナリノヘヤニフクガアル」

 TOPへ戻る