ぼうけんき
第1話後編『女の子のおしおき』

2005/04/21UP・2010/04/24修正


目を回しているアインを除いた他の2人は躊躇した。

「服ってこれ?」

「この館の主人ってお義母さんみたいな趣味してる」

くしょん。
くしゅっ。

「寒い〜っ」

ドーリーがツヴァイに擦り寄る。

ツヴァイもそれを拒絶しない。

「触手のヤロウ、冷房を入れやがったな」

寒さにアインも目を覚ます。

「寒っ!」

ボコッ。

ツヴァイに抱きついて暖を取ろうとするが殴られる。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

「まあ、ドーリーは違和感ないだろうし、ツヴァイもなんとか」

「問題はアインだな」

「でもっ、アインだって似合わないことはないと思う」

くしょん。
くしゅっ。
ぐすっ。

「仕方ない」

「そうだな」

「ぼくはお義母さんに何度か着せられたことがある」

「俺だってあるよ!おしおきとか言われて」

「ぼくも実家では・・・」

3人は、ひらひらした女の子の服(当然スカート)を着始めた。

じっ。
 
ドーリーがアインを見詰める。

流石にドーリーは似合っている。

金髪碧眼の美少女だ。

アインは分っていながら少しドキドキする。

「お化粧すれば女の子に見えると思う」

何故か服と一緒に化粧道具も置いてあった。

「ちゃんと化けとかないと女装の変態って噂になるぞ」

既に鏡に向かって口紅を引いていたツヴァイが言った。

ちゃんと女の子に見える辺りが器用だ。

「俺が一番似合ってないって分っててなんで花柄ピンクを着せる?」

「いや、アインって基本的に女顔してるってば」

「ぼくがちゃんと綺麗にしてあげるから」

「なんでお前等、女装に慣れてるんだよっ!」

「・・・お師匠様の趣味で」

「アインだって寝てる時にリボン付けられたりしてるんだよっ」

「既に女装の変態だって噂になってる気がするのは俺だけか?」

ツヴァイが悪戯っぽく笑う。

「スカートめくりっ!!」

「きゃあ〜っ!」

黄色い声をあげてスカートを押さえるアイン。

「アインが一番、女の子になりきってるよ」

「ああ、嫌がってる癖にイチゴのパンツまで穿いてるし」

ふてくされた少女?が下着を脱いで放り出す。

「なあ、もう帰ろうぜ」

ごうっ

扉を開けた途端、突風が吹いた。

「うわあ〜っ」
「ひゃあっ」
「きゃぁ」

スカートを押さえる3人組。

「うんうん、3人共スカートが良く似合う。ノーパンってのが残念だが」

その部屋にいる筈の触手さんの姿は無く1人の女性が立っていた。

「お師匠様」
「お師匠様」
「お義母さん」

そう呼ばれた女性はまずアインの頭をぐりぐりとした。

地味に痛い。

「おとなしく留守番してろって言わなかったか?」

 次にツヴァイの頭を軽く小突く。

「アインの首に紐でも付けて繋いどけって言ったろ?」

最後にドーリーの髪をぐしゃぐしゃにする。

「危ないことしちゃダメって言ってあるだろ?」

どうも扱いにかなりの差があるようだ。

「さてと、これからお説教&おしおきタイムだな」
 
ツヴァイが口を開く。

「どうして、お師匠様がここに?」

少なくとも見た目は彼らの姉のような師匠が応える。

「この館は研究分室なんだよ。」

アインが情けなさそうにスカートを摘まむ。

「するとこの格好もお師匠様の趣味?触手やスライムも?」

けりっ。ゲシッ!
 
「わたしの趣味だと決め付けるなっ!」

ドーリーが心配そうに呟く。

「うわ〜っ、股間にモロ入った・・・アイン、ひくひくしてる」

師匠は続ける。

「もし、結界が破れて中の魔法生物が洩れたら管理責任を問われるのはわたしなんだからな」

3人は顔を見合わせる。

結局、自分の保身が大事らしい。

「ん?不満そうな顔だな。まず触手さんでおしおきしようか?拷問&尋問用だから凄いぞ」

「い、いえ遠慮しときます」
「動けなくなると家事に支障が」
「(無言で涙目)」

「まあ、それは勘弁してやろう。わたしはやさしいやさしいお姉さんだから」

どこがっ!
3人は心の中でツッコミを入れたが口に出す勇気は無い。

「じゃあ、まずその格好のままで馴染みの酒場まで行くとするか!」

家とは反対の方角。
それもこれから込み合う時間。
知り合いが大勢。

お師匠様はスタスタと歩き始めた。

「ほら、さっさと来ないと魔法で下から風を吹かすぞっ!」

ごうっ

直下から突風が吹く。

「ひゃっ」
「うわっ」
「やだっ」

3人の男の子のひらひらスカートがめくれあがる。
通りを歩く人々の視線が痛い。
クスクスと或いはゲラゲラと笑われている。
下には何も穿いていないので男の子の大事な部分が丸見えだ。

「アイン、ツヴァイ、ドーリー!とっとと歩かないと見世物になるぞ」

既に充分に見世物状態である。

(酷いっ、名前を呼ばなくたっていいのに)
(ううっ、兄ちゃん達にでも見られたら何を言われるか)
(は、恥ずかしいよぉ)

3人は顔を真っ赤にしながら師匠の後に続く。

ぎぃっ

馴染みの酒場。
冒険者が集う場所。
お師匠様が暇を潰す場所。
顔見知りだらけの場所。
少女の姿を見掛けることは稀な場所。

無骨な男連中がナンパでもしようと寄ってくる。

(うわ〜っ、騎士団の人もいるよ)
(幸い兄ちゃんはいないな)
(ひ〜ん、目が怖いよぉ)

「気が変ったっ!アイン、ツヴァイ、ドーリーっ騎士団の詰め所まで行くぞっ」

一瞬、場の空気が凍る。
次の瞬間には爆笑の嵐。

「アイン、別嬪さんになって」
「アイン、似合うぞ今度デートしよう」
「アイン、男でも構わねえから一発やらせろや」

からかいの言葉の殆どは黒髪の少年に向けられた。
彼はこの街では色々な意味で有名人だから。

ごうっ。
再び魔法の風が直下から吹く。

「ぐずぐずしてるからだっ!」

(ううっ、しばらくココには来られない)
(ううっ、しばらくココには来られない)
(ううっ、しばらくココには来られない)

見事に心の声がシンクロした3人の弟子は大慌てで師匠を追った。

「ツヴァイの4番目の兄ちゃんっ!」

黒髪の少女が声をあげる。

お師匠様の顔を見て逃げようとしていた男が立ち止まる。

(黙ってりゃバレなかったのに)

ツヴァイが余計なことをしやがってという眼でアインを見る。

「えっと、誰?・・・ってアイン?するとこっちはツヴァイか・・・」

「それより、わたしの顔を見て逃げようとしたな」

「い、いや、あまりにお美しいんで照れてしまいまして・・・」

流石に魔法使いの癖にオーガーを素手で殴り倒す女に近づく命知らずな男はこの街にはいませんとは言えないようだ。

「ちょうど弟におしおきしてる最中だ」

「・・・手加減してやってください。可愛い末っ子ですから」

ツヴァイの兄は手を振って笑いを噛み殺しながら歩いて行く。

(最悪っ。なんで兄ちゃんに出くわすんだよぉ)

騎士団の詰め所。

「ごめんください〜っ!お預かりしてるアインが支給品のショートソードを紛失したので詫びを入れに来ました〜っ」

「ぷっ・・・い、今、団長を呼んで来ますから」

門番の1人が建物の中に消える。

「アインっ!そこの石段に手をついてお尻を突き出してろっ」

(ううっ、なんでこんな酷い目に・・・)

「ところで何か騒がしいようだが?」

「ああ、またお城の姫様が遊びに来てるんですよ」

(ぎくっ!)

 門番の騎士は女装していつでもお尻を叩かれる体勢にスタンバイしているアインを眺めた。

「そういや、姫様ってアインがお気に入りだったな。最年少で可愛いって」

(ううっ、こんな格好見られたら笑われるだろうな)

ドカドカと足音がした。

「アインが女装して詫び入れに来たって聞きましたが・・・げっ・・・」

団長は剥き出しになった少年のお尻をペシッと軽く叩いて言った。

「反省してるのは分るが、もっと自分を大切にした方がいいぞ」

「???」

「こんな男臭い詰め所で女装してお尻を突き出してるなんて」

ちょっと白い目。

「団長、やはりそういう趣味が・・・」

「いえ、団長・・・コレを」

お師匠様がそっと鞭を渡す。

「前は勘弁してやってください」

「お師匠様〜っ!」

「なんだよ、庇ってやったろ。それとも前も叩いて欲しいのか?」

「いえ、どうかお尻を叩いてください」

ビシッ!

 手加減して貰っても鞭でお尻を叩かれればやはり痛い。

「ぐっ・・・」

我慢していても悲鳴は洩れる。

「あの、もうこれぐらいでよろしいでしょうか?」

騎士団長がお師匠様にお伺いを立てていると女の子の声がした。

「わ〜っ、なんか楽しそうなことしてるっ」

出た。
高貴そうな顔立ちと高そうなドレス。
それと釣り合わぬ軽そうな言動。
お城の姫様、これでも世継ぎである。
国民には庶民的というので人気がある。

「姫様、奥の方でお待ちください。後でお相手致しますので」

「でも、なんか女の子を苛めるなんて珍しいことしてるし・・・どっかで見た顔ね?そっちの2人も」

「あの、奥でお待ちください」

「あれ?あんたアインに似てる」

姫様がお尻叩かれ体勢の女装アインを覗き込む。

「ひ、人違いです」

(ば、馬鹿)

(声出したらバレバレなのに)

「えっ?アイン?ぎゃはははは・・・」

案の定、姫様は爆笑する。

「決めたっ!やっぱりアインは私直属の護衛にするっ」

「いえ、アインはまだロクに訓練もしてませんので」

「だって欲しいんだもん。連れて帰って私の服を着せたり、お風呂に入れて洗ったりするっ」

ツヴァイがドーリーにそっと囁く。

「なあ、ヘタしたらアインが次期国王になったりして」

「この国が滅びると思う」

お師匠様が団長に歩み寄る。

「あの、いくらなんでも姫様の前でお尻丸出しってのは流石にアインも嫌なんじゃないかと」

とスカートを戻してそのまま引っ張る。

「おしおきの続きがあるんで連れて帰ります」

遠くに姫様の恨みの声が聞こえる。

「危なかった・・・姫様手が早いから」

「でもお師匠様、アインもまんざらでもないみたいでしたけど」

「決めたっ!俺、姫様を護れるように強くなる!そしてプロポーズする」

突然、アインがガッツポーズを取る。

「いや、その格好でそれ言っても説得力無いから」

独りで勝手に盛り上がっている少年に嫌味は通じない。

上機嫌で妙な歌を歌いながら街道を歩く女装少年というのは異様だった。

「ルンルンルン、姫様は俺が好き〜っ、俺も姫様が大好き〜っ、姫様は俺が好きっ・・・」

お師匠様がボソッと言った。

「知らないって幸せなことだな」

そして少し引いている2人に振り返った。

「あ、帰ったらちゃんとお前達のおしおきもするから安心しろ」

街の便利な一角にある小さ目の館。

周囲には各種の学校やギルド、神殿それに市場や商店も多い。

目立つ一行・・・魔法使いと3人の弟子はやっと帰宅した。

今日一日でどれだけの噂を街に提供したことだろう。

しかも、今日という日はまだ終わっていないのだ。

「ツヴァイ、ドーリー。そこの台に手を置いてさっきのアインと同じ格好をするように」

2人の女装っ子は素直にスカートをめくりお尻を突き出す。

「ツヴァイ、アインの剣と同じように魔法使いの杖は大切なものだって知ってるな?」

「はい・・・」

「それに、アインが勝手なことをしないように頼んでおいたな?」

「はい・・・」

「ドーリー、連帯責任って知ってるな」

「う、うん・・・」

「じゃあ、おしおきする」

お師匠様は戸棚から木製のケインを取り出す。

「お師匠様、それは?」

「アイン、お前もお世話になってる尻叩き棒じゃないか」

「ずるいっ!俺は鞭で叩かれたのに」

ぽいっ。
 
アインに平たい先端をした木の棒を放り渡す。

「じゃあ、お前が公平だと思う程度に叩け」

「・・・俺が叩くの?」

「そう」

「ツヴァイとドーリーを?」

「他に誰がいる?」

「後で理由をつけて俺のことを叩いたりしない」

「しない。それ以上叩いたらヤバイだろお前の尻も」

「ふふふ・・・遂に俺がツヴァイに復讐する時が・・・」

しまった。
こいつ思った以上に蓄積してた。

ぎぃやぁ〜っ!!

ツヴァイとドーリーが涙目でアインを睨みつけるのにそんなに時間は掛からなかった。

「僕、もうアインに同情なんてしないからな」

「ぼくも・・・覚えてろよ・・・」

やっとパンツを穿き男の子の服装に着替えた3人が台所に入るとお師匠様が宣言した。

「最後のおしおきでアインは晩飯抜きだからな」

「お師匠様・・・やっぱり俺を苛めて喜んでる・・・」

「ツヴァイは飯を作るのに抜きは可哀想だろ?ドーリーは育ち盛りだし」

空腹に料理の臭いだけというのはキツい。

いつものように4人で囲む食卓。

でも用意された食事は3人分。

「どうしたんだ?3人共、妙に腰が浮いてるぞ」

お師匠様はもじもじしながら椅子に座っている弟子達に話し掛けた。

「・・・そうか・・・よし3人で並んでズボンとパンツを脱げ」

「お師匠様っ!もう勘弁してくださいっ!!」

「僕、頑張って料理を作ったのに・・・」

「・・・もうやだ」

「いや、治癒魔法を使おうと思ったんだが・・・お前ら尻が痛くて座れないんだろ?」

今日はパンツを脱いでばっかりだ。

弟子達はそんなことを考えながら治療を受けた。

すっきりして席に戻ってもアインの表情は冴えない。

「アインっ!」

「はいっ、お師匠様」

「反省したか?」

「はい・・・」

「じゃあ、わたしの分の食事をやろう。わたしはお前らの所に行く前に食べたから」

 ツヴァイとドーリーの顔も明るくなる。
 飯抜きの罰を受けている前で食事をしても美味い筈が無い。

「お師匠様ってやっぱり優しいな」

単純なアインはベッドの中で呟いた。

「そもそも、アインが冒険に行こうなんて言い出さなきゃおしおきもされなかった」

ベッドに潜り込まれていたツヴァイが呟く。

「でも今日はおもしろかった」

当然のように二人の間に潜り込んでいたドーリーも呟く。

「ところでアイン、自分のベッドに戻ってくれないかな?」

「なんで?ドーリーは良いわけ?」

「・・・触手が言ってたよな・・・お前まだおねしょしてるんだろ」

「してねえっ!」

「そんな話もあったね」

狭いベッドに少年が3人。
窮屈だけど何故か嬉しい。

「こいつらまたひとつのベッドで寝てる・・・」

夜中に布団を直しに着たお師匠様が呟く。

「まだまだ子供だな。冒険なんてまだ早い」

そして、そっと呪文を唱える。

朝までおしっこを我慢できる呪文。
今日はお腹が冷えた筈だから。
 
 実は3人共、完全にはおねしょが治っていないことを3人は知らない。

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