ぼうけんき
第2話前編『朝からドタバタ』

2005/04/28UP・2010/04/24修正


RPGのようなファンタジーの世界。
そこに3人のショタっ子がおりました。
 
黒髪に黒い瞳の少年はアイン。
単純お馬鹿な騎士見習い。
薄い赤毛に薄い赤目の少年はツヴァイ。
家事が得意な盗賊風味の魔法使い。
金髪碧眼の少年はドーリー。
甘えん坊の精霊使い。

それは冒険者ですらない彼らの無軌道な冒険の物語。
・ ・・になるといいな。 



アインの朝は寝床から転げ落ちることで始まる。

ドーリーが突き落とすのだ。

ツヴァイは朝食の支度に忙しい。

3人のショタっ子のお師匠様は小鳥をあしらったエプロン姿で館の表を箒で掃きながら道行く人々に「頑張ってくださいね」等と声を掛けている。

「・・・ふに?」

「アイン、朝だよ。ほら着替えて、顔を洗って・・・二度寝しないっ!」

「ふにゅう・・・」

「・・・脱いでから着替えを探す癖は治した方がいいと思う」

「ふわぁ〜い」

ドーリーが悪戯っぽく笑う。

「ふふふ、ちょっと懲りさせないとね」

パチン。

アインに首輪を嵌めると紐をベッドの足に括り付ける。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

呪文を唱える、精霊の力を借りる魔法。

「・・・?」

「しばらく、ちょっと寝惚けたままになるから。アインの分の朝食もちゃんとぼくが食べてあげるね」

「!!」

「だめだめ、ただでさえ不器用なんだから寝惚けたまま紐なんか解けないよ」

「!!!」

「いいよ、助けを呼んでも。素っ裸で首輪に繋がれてる姿を見られたいんなら」

「!!!!」

「あ、その首輪をくれたのお師匠様だから、アインが悪いことしたら繋げって言われてるの」

半分夢の世界に足を突っ込んだ状態でアインは誓った。

明日は早起きしてドーリーの分の朝食を喰ってやると。



「お〜い、アイン。姫様がいらっしゃったぞ」

「おはよう、アイン」

やっと意識が戻ってきた裸の少年の耳に届いたのはお師匠様の言葉と女の子の挨拶だった。

「ひ、姫様っ!なんでこんなとこに・・・」

パニック。
 
アインの顔が沸騰する。

「アイン、散歩に行こっ」

姫様が笑いながら提案する。

「じゃ、じゃあ服を着るんで・・・その・・・」

「そのまま行こうよ。途中でおしっこもさせてあげる。ちゃんと足をあげてね」

お、俺はイヌかっ!
い、いや確かにイヌみたいに繋がれてるけど。
ん?
お師匠様が笑いを堪えてる・・・

「てめ〜っ!ツヴァイだろっ!!」

姫様の姿をした少女は微かな煙を発して少年の姿に戻る。

「あんまり似てないと思ったんだけど見事に騙されたね」

「お、男の純情を弄びやがって」

今にも殴りかかりそうなアインをお師匠様が止める形で割って入る。

「姫様からお届け物があったのは本当だぞ」

ドダダダダッ・・・・

「なあ、なんでうちの弟子は女装癖だの裸で走り回るだの妙な趣味ばかりあるんだ?」

「僕を見ながら言わないでください。お師匠様」

ドダダダダッ・・・・ドガッ!

「てててっ、痛いじゃないか」

ドーリーにぶつかって止まる。

「あ、ごめん」

「アイン・・・首輪とヒモはお気に入り?あとパンツぐらい穿けば?」

「・・・ドーリー手に持ってるのは?まさか?」

金髪碧眼の美少年は自らが身に纏えば異常なまでに似合いそうなメイド服を手にしていた。

ま、まさか?
否定したい。
でも、姫様から届け物があったって。

「そ、それ今日届いたのか?」

「うん、そうだよっ。可愛いでしょ。あとちょっと早いけど水着も」

み、水着?
うわ〜っ。
た、確かにあの形を着てる男もいるけど、き、基本的に女物・・・だよな。
紺色のそれは異世界では主に女子学生が使うとされている。

「うわ〜あ〜んっ」

アインは走った。
現実を否定したかった。

「待ってっ!」

ぐいっ、ぎゅっ。

「ひ、ヒモを踏むなっ!首が絞まったじゃないか」

「いや、いくらなんでも素っ裸で外を走るのはどうかと」

しかも首輪とヒモ付き。

「服、着てくる」

とぼとぼ



「やったじゃないか、あんな凄いの貰えるなんて」

重い気持で着替えを済ませたアインにツヴァイが声を掛ける。

「・・・欲しいならやる」

「怒ってる?からかったこと」

「いや・・・なんか俺って女装の変態ってイメージなのかなと思って」

「大丈夫っ!アインはうちで一番女装が似合わないから・・・あれ?」

普段ならパンチの一発も来るところなのに。

「はあ〜っ」

「何がそんなに気に入らないのさ?」

「・・・ドレスや水着貰って嬉しいもんか」

「そのこと?喜ぶと思うけど」

「現に喜んでねえだろっ!」

「・・・(思考中)・・・あ、勘違いしてない?」

「何が?」

「ドレスと水着ってドーリーがお師匠様に買ったんだよ?お小遣い貯めて」

ドダダダダッ・・・・

名工の手による見事なグレートソード。
正規の騎士でも憧れるような逸品だ。

「やっぱり、姫様は俺を愛してるんだあ〜っ!」

浮き沈みが激しい。

紛失したショートソードの代わりにしては豪華すぎる。

グレートソードは貸与されたのではなかった。

実は報酬の前払い。
 
「・・・あの3人に可能だと姫様はお考えなのか?」



街から歩いて3日の距離にある洞窟。

その奥にある『何か』を取ってくる。
 
それが3人の少年に与えられた使命。
 
「ふふふっふん。姫様の御信頼も厚いこの騎士アイン様にかかればちょろいちょろい」

立派な大剣を貰ってご機嫌なアインは既に浮き足立っている。

「飯、食わないんなら片付けるぞ」

調理担当のツヴァイが素肌にエプロンを着けながら言った。

「食べる食べる・・・ってなんで裸エプロン?」

「晴れてるから洗濯したんだ」

「今は曇ってるけど」

「ドーリーがお師匠様に水着を買ってただろ?」

「ああ、お師匠様の年齢だと無理のある奴」

重く黒い空気と殺気。

「ア〜イ〜ン〜」

ズルズル・・・

「あ〜ぁ。アインはまたおしおきか」

「お義母さんに似合わないかな?可愛いと思ったのに」

「ドーリー、自分に似合う格好が他人にも似合うと思うのは危険だ」

「じゃあ、ツヴァイが着る?」

部屋の外で絶叫が聞こえる。

「お師匠様〜っ、これはあんまりです!」

首には再び首輪とヒモ。
繋がれた杭の後ろには犬小屋。
ご丁寧にも『アイン』と札が掲げてある。

「ここでそうしてろ」

「道から見えますっ!」

「なに?また服を脱いで裸になりたいって?」

理不尽だ。

ドーリーが食べかけのアインの食事を持ってやってくる。

「お義母さん・・・」

「お、優しいな。アインに食事を運んでやるなんて」

「あのごめんなさい。お義母さんには可愛いのじゃなくってセクシーなのが似合うんだよね。ツヴァイに言われるまで気がつかなくって」

ゴマすり・・・
アインは確実にポイント差をつけられていることを感じた。

「アインに食わせたら、冒険に連れて行ってやってくれ」

「うん」

「あのダンジョンには子供しか入れないから助けに行けないからな」

「大丈夫」

「ちゃんとツヴァイの言うこと聞くんだぞ。アインの言うことは聞くんじゃないぞ」

「分かってるって」

「お師匠様・・・」

「悔しかったら年上らしく振舞ってみるんだな」

「・・・じゃなくって・・・おしっこ・・・」

「・・・後で始末してやるからそこで漏らしてろっ!」

「やだぁ!こんな人の見てるところでおしっこ漏らすなんて」

便利な場所にある館の前の道は人通りも多い。

既に幾つかの視線がアインを見詰めている。

「お義母さん、ぼく、ツヴァイと冒険の用意してくる」

マズイ空気を察したドーリーはさっさと逃げる。

「さてと私も仕事があるから」

「お師匠様〜っ!」

「アインは甘えん坊だな」

お師匠様は正に子供におしっこをさせるようにM字開脚の姿勢で少年を持ち上げる。

問題はズボンもパンツもそのままだということだ。
 
情けなさそうな表情になるアイン。

前の通りでは更に視線が増えている。

パンツがじんわりと湿ってくる。
そしてズボンに染みが広がる。

「うっ、うっ、ヤ、やだよぉ」

おしっこよりも先に涙が零れた。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

男の子を抱えている女性は短い呪文を詠唱して首輪を消し去るとその体勢を維持したまま館の裏庭に移動する。

「お、お師匠様〜っ・・・えぐえぐえぐえぐっ」

 移動中に下をぐっしょりと濡らしてしまった男の子は顔もぐっしょりに濡らしている。

「もう泣くな」

ぐりぐり。

「これに懲りたらちゃんと早起きするんだぞ」

こくこく。

どこかで問題が摩り替わっている気がする。

およそ30分後。

アインとツヴァイとドーリーの3人は出発した。

時々、街の人々にくすくすと笑われながら。

「ふふふ、上玉のガキが3人だけか楽勝だな」

そして何故か後をつける謎の男たち。

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