ぼうけんき
第2話後編『しっぽ洞窟』

2005/05/22UP・2010/04/24修正


大人は入れないと聞かされていた洞窟。

狭いわけでも天井が低いわけでもない。

普通の暗いだけの洞窟。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

ぽしゅっ。

ツヴァイの唱えた光の魔法は効力を発揮しない。
 
「魔法が使えない?ドーリー、ランタンか松明出してよ」

「・・・ごめん持ってない」

「基本装備だろ?なんで忘れるんだよ」

「ランタンはさっきの騒ぎで割れちゃったし、松明はいらないと思って」

「どーするんだよ。真っ暗なままじゃ冒険なんてできないぞ」

かっ。

眩しい光が灯る。

「アイン?呪文も唱えてないのに?・・・やっぱり君、アインじゃないね?」

ツヴァイがアインに問い掛ける。

「尻尾も生えてるし・・・」

ドーリーがフサフサの尻尾をもふもふと触って感触を楽しむ。

にょきっ。

尻尾に加えて髪の毛の下からキツネのような耳が生えてくる。

まるでキツネがアインに化けそこなったようだ。

「わっ、なんだよこれ?」

いちばん驚いているのはアイン本人だ。

「お、俺はアインだよ。なんか身体が軽くなった気がしたりするけどやっぱりアインなんだよ!」

「今はまず服を着ろっ!」

パンツを手に取ったアインは重要なことに気付く。 

「尻尾が邪魔でパンツが穿けない・・・」

お尻の穴から生えている尻尾が邪魔でパンツが引っ掛かる。

中に押し込むにもキツネのような太い尻尾は収まりきらない。

「誰も見てないんだからパンツなんか穿かなくてもいいのに」

 ツヴァイが無責任に発言する。

「やだよ。それに帰りはどうするんだよ」

「アインのフルチン問題より重要なのは、魔法の問題だ」

ツヴァイが頭を抱える。

「さっきから試してるんだけど魔法が使えないんだ。魔法無効フィールドがあるんだと思う」

「そうだ!ズボンを前後ろに穿いたら尻尾が出せるんじゃない?パンツは穿けないけど」

「ドーリー、頭いい!」

アインが三角の耳をピョコピョコさせながら喜ぶ。

「よーし、張り切ってお宝をゲットしよ〜っ」

「・・・聞いてないなこいつら」



「ゲット、ゲット、お宝ゲット・・・」

妙な歌を歌いながら発光体を伴いながら洞窟を奥へ奥へと進むアイン。

その後にドーリー、ツヴァイの順で続く。

ずるっ。
どてっ。

 アインは何度も滑って転ぶのだが大きな尻尾のお陰で痛くないらしい。

がさっ。

騒がしい一行にダンジョンに巣食う魔物が気付かない筈が無い。

「イヌ?」

「ばかっ!ケルベロスぐらい知ってろ」

げし。

アインは魔剣を引き抜くと僅か数秒で殴り倒す。

斬り倒したのではない、大剣で殴り倒したのだ。

「凄い、こんな強そうな魔物を一撃!」

「ふふふ、ドーリー、誉めて誉めて・・・姫様もこの雄姿に惚れ直すかな?」

なにかがおかしかった。
アインに生えたキツネのような耳と尻尾。
異常な強さ。
そして魔法が使えないこと。

ずんずんずん。

3人は洞窟を探検しているとは思えない勢いで進んでいく。

「うわあ、広い」

ドーリーが素っ頓狂な声をあげる。

そこには地底の大広間が広がっていた。

広過ぎて魔法の灯りが届かない部分がかなり多い。

「きっと、お宝はここに・・・」

ぎゅむっ。

駆け出そうとするアインの尻尾をツヴァイが掴む。

「あ、コレ捕まえるのに便利・・・」

「尻尾を掴むなあ〜っ、な、なんかちょっと感じるんだからな」

ちょんちょん。

「だから、触るなって・・・」

がばっ。

「うわあ〜っ!!」

何処からともなく伸びてきた数本の触手がアインの尻尾に巻き付くとそのまま宙に吊り上げる。

「アイン!」
「アイン!」

内心、「またか」という思いつつツヴァイとドーリーが叫ぶ。

が、彼らの身体にも触手が絡みつき持ち上げられるのにそんなに時間は要しなかった。

「今度の挑戦者は特に若いな、・・・でも人間がいないな。ハーフばっかりか」

じたばた、じたばた。

暴れてみても3人の少年を拘束する触手の力は強く解ける気配もない。

触手の本体は見えない。

ただ、触手だけが地面から無数に生えている。

「なんだよ、またお師匠様の趣味か?」

キツネのような太い尻尾を掴まれて逆さに吊られているアインが騒ぐ。

「うるさいぞ、獣人ハーフ・・・」

じぃぃぃぃぃ。

「ぎゃあ!」

前後を逆にして穴から尻尾を出していたアインのズボンのチャックが上げられる。

言い忘れていたがこの世界のズボンにはチャックがあるのである。
 
「ま、前を挟まれるより痛い・・・」

ふにゅ、ふにゅ。

「あ、や、やめ・・・」

触手は、ふにふにとアインの三角耳を弄くる。

「尻尾や耳って敏感なんだ」
 
吊り下げられているだけのドーリーが呑気に言う。

「触手さん物知りだなあ」

まだ何もされていないのでツヴァイも余裕だ。

どうやら酷いことはアインの担当だという想いが強いらしい。

「でも、ぼくらの中にハーフなんていないよ。人間ばかり」

「うん、アインだって淫獣の卵の影響で尻尾が生えてるだけだしな」

その会話に反応したのか、何本かの触手がずるずると服の下に潜り込んでくる。

「じゃあ、もう少し調べてみようか」

わさわさわわさ

「ひっ」
「うひゃっ」
「やだっ」

ふにゅふにゅふにゅ

うねうねとした触手が服の下で、ごそごそと動き回る。

くすぐったいし、時々、妙な気分もする。

「ふむ・・・やはり全員がハーフのようだ・・・珍しいな」

「俺達は人間だ!」

そう叫ぶアインの尻尾を触手が思いっきり引っ張る。

「い、痛い、痛いってば」

ずぼっ!

「抜けるんだ、尻尾」

「そうだな、引っ張れば良かったのか」

アインのお尻から無理矢理に引き抜かれた尻尾は地面に転がった。

なでなで。

「お尻の穴を撫でるな〜っ、変態か、お前は!」

「触手だからな」
「触手だからね」

「あっ、や、何か出ちゃあいけないものが出る気がする・・・」
 
アインの表情が苦痛とも快楽とも判断しがたい表情で歪む。

「それを出させるのが私の仕事だ」

なでなで。

「うひゃっ」
「ひん」

触手の責めはアインを中心にしつつ、ツヴァイとドーリーにも向けられる。

「残りの二人もさっさと出したらどうだ?獣人より感度は悪そうだがな」

にゅっ。

「あ、アイン、また尻尾が・・・」

再び、キツネのような尻尾が生える。
今度はお尻の穴ではなくもう少し上から生えている。

「これがこいつの本当の尻尾だ。さっきまでの尻尾は何かの魔法が反応してたんだな」

がーん。

「じゃあ、俺、本当に獣人?」

「正確には先祖返りだな、家系に血が混じっていると両親が人間でも生まれる」

「よかった」

ほっと胸を撫で下ろすアイン。

この世界の触手さんは基本的に解説屋さんのようである。

にゅっ。
にゅっ。

ツヴァイとドーリーにも何かが生える。

「ズルイ、そっちの方が格好いい」

アインが拗ねる。

「魔族と精霊族だな、人間以外の挑戦者は少し邪道だがまあいいか」

どさっ。

「力の引き出しは終わった。後はルールに従い己自身と闘って勝利するがいい」

ずずっ。

「あ、あの・・・挑戦って何?それにコレは・・・」

ツヴァイは触手に問い掛けようとするが触手は答えずに地面の底に沈み込んで消える。

「・・・アイン、ドーリー、」

ぺたぺた。

アインはドーリーの額から生えた角を嬉しそうに触って喜んでいた。

「いいなあ、格好良くって」

「自分じゃ見えないから、おでこがムズムズするだけなんだけど」

ばさっ、ばさっ。

「ツヴァイ、その羽根って飛べるんだ・・・いいなあ便利そうで」

黒い翼にタッチしようとするアインをツヴァイは拒否した。

ずずっ、ずずっ、うごうご。

地面を尻尾が這っている。

先程、アインから抜け落ちた尻尾だ。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

ばしっ!

ツヴァイの唱えた呪文が効力を発揮する。
初歩的な光の攻撃魔法。
・・・でも的には当たらずハズレ。

「あれ?呪文が使える?」

 赤毛の少年は首を傾げる。

「淫獣と魔剣が反応して魔法無効フィールドを形成してたんだ。どっちもアインを主だって認めてるから」

 金髪の少年が解説する。

「ドーリー?」

「角のお陰かな?分かるんだ、聞こえるっていうのか、感じるっていうのか」

ぴょん、ずぼっ。

「ひいっ!」

一度、抜け落ちた筈の尻尾が再び黒髪の少年のお尻に潜り込む。

「ダブルしっぽ・・・」

「物凄く間抜けに見える」

後ろ前に穿いたズボン。
お尻のチャックからはみ出した大きくて太い2本の尻尾。

「そんなに間抜けかなあ?」

アイン本人は2本の尻尾をぴょこぴょこと振り回してお気に入りのようだ。

「でも、この尻尾って淫獣なんだろ?ヤバくない?」
 
ツヴァイがお尻の穴に潜り込んでいる方の尻尾を触る。

どさっ、ずるずる。

「ひっ!」

尻尾と化している淫獣がアインから離れてツヴァイのお尻に潜り込むべくズボンの中を這い上がる。

「あ、気を悪くした。どうも複合効果で知性が生じちゃったみたい」

ずるずる・・・

「あれ?止めちゃったみたい・・・ツヴァイちょっとズボン脱いでみて」

「こらこら、僕はアインじゃないんだから露出狂の趣味はないの!」

「俺だってねえよっ」

「いや、妙な気配がするんで・・・やっぱり・・・」

「なんだよ、ツヴァイも尻尾生えてるじゃんか」

ズボンとパンツを無理矢理ずり下ろされたツヴァイのお尻には黒くて細い鞭のような尻尾が生えていた。

「・・・羽根と尻尾で一組のものらしくって」

「俺のケモミミと尻尾が一組みたいなもんだな」

アインが嬉しそうに頭の上のキツネ耳をぴょこぴょこさせる。

「すると・・・」
「だね・・・」

 悪戯っぽい視線が4つドーリーに向けられる。

「やっ、ぼくには尻尾なんて生えてないよ!角だけ角だけ!!」

「しのごの言わずに脱いで見せてよ」

「なんだったら淫獣の方の尻尾をやるからさ」

「そんなエッチな尻尾いらないっ」

がさっ。

「そうそう、騎士くんがパンツも脱いで前と合わせてトリプル尻尾をやってくれないと」

いつの間にか一人の女性が立っていた。

「うんうん、黒髪の子が一番の好みだな」

お師匠様とは全く違う雰囲気で女の色気を漂わせた女性がニヤニヤと悦んでいる。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

三人は顔を真っ赤にする。

「あ、でも赤毛の君もハンサムで頭良さそうだし、金髪くんも女の子みたいで美形だよ」

パクパクパク。

三人は何かを口にしようと思うのだが緊張して言葉が出ない。

「お姉さん、皆の前の尻尾も見たいなあ・・・ふにふにしてあげるから見せて」

顔を見合わせる三人。

「どうする?」

「恥ずかしいよ」

「でもお姉さん見たいって言ってるし・・・」

ぴょん、ずぼっ。

アインのお尻の穴に尻尾の淫獣が飛び込む。

魅了の呪文が解ける。

「・・・お姉さん美人だけど好みじゃない。俺、姫様一筋だから」

「チャームを使って装備を外させようとしたでしょ?」

「お姉さんってモンスター?」

ざわ、ざわ・・・

「仕方ない、実力行使で脱いでもらうことにする」

地面から一旦は消えた筈の触手が幾本も生えてくる。

「頭、悪いな、出すんなら引っ込めなきゃよかったのに」

「ううん、これ別の触手さん。気配が全然違う」

ぽたっ、ぽたっ

先の触手との違いを証明するかのように先端から粘液を滴らせている。

「触手さんとスライムさんを合成した夢の素敵生物よ!」

にゅる、にゅる、にゅる、にゅる

「よーし、俺が叩き斬ってやる!」

アインが魔法のグレートソードを振りかざす。

「あ、切っても増えるだけだよ。スライムだから」

モンスターのお姉さんが注意してくれる。

「じゃあ僕が炎の魔法で・・・」

ツヴァイが呪文を詠唱しようとするのを再び、お姉さんが遮る。

「赤毛くん、騎士くんがダブル尻尾の間は魔法が使えないって聞いてるでしょ?

金髪くんは元々、直接的に攻撃する魔法が使えないし諦めて服を脱いじゃいなさい」

「脱がしてどうするつもり?」

警戒心剥き出しのドーリーが尋ねる。

「そうね、適当に遊ばせてもらっちゃおうかな?」

そーっと、そーっと、にじりにじり

「せーの!」

すかっ。
 
アインの攻撃は失敗した。

「こっそり殴ろうたってダメよ、騎士くん全然気配とか消えてないんだもん」

お姉さんは子供を叱るように言った。

「くっ!」

ぐいっ。

「作戦の順番が逆なんだってば、尻尾を抜いて赤毛くんに魔法を使わせようってのバレバレ」

お姉さんは少し屈んで視線をアインに合わせる。

「あのね、もっと頭を使わないとダメ。それに魔法が使えるようになったら私の魅了の魔法でやられるでしょ?」

「う、うん・・・」

「ヨシヨシ、いい子、いい子」

アインは頭を撫でられて顔を真っ赤にする。

「じゃあ、君が最初の犠牲者ね」

にゅるにゅるにゅる

足元を這っていた触手が頭上にまで持ち上がった。

ぽたぽた

そして自らを滴に変えてアインに降り注ぐ。

 じゅう・・・

「や、やばくない?」

「・・・ドーリー、僕があいつに飛び掛るからその隙に逃げろ」

ツヴァイの眼は真剣だ。

「ダメっ!・・・お姉さん、脱ぐから、ちゃんと脱ぐからアインも離して!」

ドーリーは自らズボンを脱ぐと一瞬だけ躊躇った後にパンツも降ろし始める。

「やん!カワイイー」

金髪で女顔をした少年にはウサギのような丸い尻尾が生えていたのだ。

「うんうん、素直なのが一番だよ、でも残念だね騎士くんはもう溶けちゃったよ」

さっきまでアインが居た場所にはヌルヌルした粘液と1本の剣だけしかなかった。

「そ、そんな・・・」

にゅっ。

精神バランスが崩れたことが原因なのか黄金色の髪の中からウサギのような長い耳が伸びてきた。

どうやらドーリーは角ウサギだったらしい。

「くそーっ!!」

ツヴァイはアインの残した魔剣を拾うと鞘を抜いて突進した。

「悪魔くんはちゃんと剣が使えるみたいね、構えが様になってる・・・ヤバいかなコレは」

ひょい。

お姉さんはツヴァイの剣戟を紙一重で避ける。
 
「あははは、ちょっとは使えるみたいだけどまだまだ素人だね」

どかっ、ひょい、どかっ、ひょい。

ツヴァイは3人の中では剣が使える方だが得意とは言い難い。

何度、突撃しても避けられてしまう。

「赤毛くんも観念して服を脱いじゃいなよ」

お姉さんは指をパチンと鳴らした。

ずぞぞぞぞ・・・

「ケルベロス!やっつけた筈なのに!!」

 ドーリーは地面から湧き出してきた魔犬に思わず後ずさりする。

「ワンちゃんと触手スライムを同時に避けられるかな?」

「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!!!!」

完全に冷静さを失って剣を振り回すツヴァイ。

「ハア、ハア、ハァ、ハァ・・・うわっ」

触手がツヴァイの足に絡みつく。

「ほらほら、注意してあげたのに。もうちょっと待ってて3人並べてケルベロスでバター犬したげるから」

「くっ・・・」

足に絡まっている触手とは別の触手がボタボタと自らを滴らせツヴァイのズボンとパンツを溶かす。

「ケルベロスの頭は3つあるから3人で丁度ね」

3人で揃って三つ首の犬の前でお尻の穴を突き出し、それぞれの首にペロペロと舐められる光景を想像する。

「そんな情けないことされて堪るか!」

アインと違って触手に絡みつかれ、服を溶かされて丸出し状態でもツヴァイだとあまり情けなく見えない。

「うふふ、安心して『僕のお尻を舐めて〜』って泣きながらお願いするようにしたげるから」

つん。

お姉さんはツヴァイが最も触れて欲しくないであろう部位を指で小突いた。

ぴん。

そしてパチンとする。

「・・・3人?」

「うん、騎士くんは・・・」

どんっ!

その時、ドーリーが突進してきた。

角を使った攻撃。

 ドーリーの容姿からはとても想像できない激しい攻撃。

「≧Ν÷〇☆〆・・・」

魔法を封じているアインがこの場にいないのだから魔法は使える。

怯んだお姉さんの隙をついてツヴァイが呪文を唱え始める。

「甘い!魅了の魔力!!・・・お姉さんを攻撃なんかしちゃダメよ」

「≧Ν÷〇☆〆・・・お姉さん、アインをここに戻してくれる?」

ニッコリと微笑みながらツヴァイが頼み事をする。

「・・・ええ、分かったわ。沈めてあっただけだから」

ずぞぞ。

地面から気を失ったアインが湧き出してくる。

「アイン、アイン・・・」

ドーリーが駆け寄る。

「触手とケルベロスを引っ込めて」

「ええ、邪魔ですもんね」

ずぞぞ。

ツヴァイが唱えたのは魔法返しの呪文。

「この洞窟の宝って何なのか知ってる?」

「『可能性』よ」

「可能性?」

「この洞窟に入れるのは子供だけ。
 言い換えれば未来に可能性を残している者だけ。
 未来に得るであろう力を先取りできるの」

「じゃあ、僕達は?」

「ええ、既に力を得ている。後は使い方のコツだけ」

「あと、服があったら欲しいんだけど。僕達、裸にされちゃったから」

「ええ、じゃあ・・・」

げしっ!

「×××××××××☆!!」

お姉さんはツヴァイの股間を蹴り上げた。

「調子に乗ってんじゃないわよ、魅了の呪文は私を好きになる呪文なの。だから返しても無駄なの」

「×××××××××☆!!」

ツヴァイは声にならない声しか出せない。

「服なんか必要無いわよ、あんたもあの子みたいにずっと洞窟にいるんだから」

がんっ。

アインがツヴァイの頭を叩く。

「こら〜っ、お姉さんに酷いことするとツヴァイでも許さないぞ!」

「・・・アイン?」

「ドーリーもだ!お姉さんは俺の大事な人なんだからな。なんたって俺達のご主人様なんだから」

なでなで。

「よしよし、いい子ね」

お姉さんはアインの頭を撫でる。

ゴロゴロ。

アインは2本の尻尾を振って大喜びする。

「わーい、なでなでしてもらっちゃった」

ごろん。

お腹を見せて手足を縮める犬に特有の降参、服従のポーズ。

一糸纏わぬ少年がやるにはかなり恥ずかしい格好だ。

「キツネじゃなくって犬だ・・・」

「アインってどうしてこう飼われるのが好きなんだろ」

「アイン、お師匠様に怒られるぞ!」

ぴく。

「そうそう、今度はお尻ペンペンぐらいじゃ済まないかもしれないよ」

ぴくぴく。

「いいもん!ずっと帰らないから」

アインはお姉さんの陰に隠れる。

「・・・疑問だったんだけどお姉さんは何?」

「そうだ、触手さんの言ってた『己と戦え』ってのと矛盾するよ」

暫しの沈黙。

「私は、あなた達3人が最も苦手とする存在よ」

お姉さんは更に言葉を続ける。

「この洞窟から戻る為には最も苦手な存在を倒さなくてはならない」

「違うよ・・・」

ツヴァイがボソリと言った。

「うん、年上の女性は苦手だけど一番じゃないよね。お姉さん、夢魔の一種だね。

他人の心を読んで苦手な『種類』の怪物に変化するんだね。

でも、ぼくたちが苦手だし怖いのは『種類』じゃないもん」

角から気配を得たドーリーが言葉を続ける。

「えっ?」

狼狽するお姉さん。
 
完全に魅了されているアインも含めて3人の脳裏に急速に最も怖い人のイメージが浮かぶ。

「だ、だめ!そんな特定の個体を苦手だって考えられたら形を保てない・・・」

元お姉さんだったものは真っ黒いスライム状に変わっていた。

「ウウウ、深層心理にまで主従関係を叩き込まれているとは・・・」

がく。

「帰ろうか・・・」

「そうだな、一応、お宝は手に入れたんだし」

「・・・尻尾だけどね」

「でも俺らの苦手ってお姉さんだったんだな」

「普通はドラゴンとか出てくるんだろうな」

「これもお義母さんの躾のお陰だね」

歩き始めた3人は一斉に叫んだ。

「服!」

女装の次は素っ裸で街を歩くことになるのか。

しかも尻尾付きで。

「アインやドーリーはいいよ、キツネとウサギだもん、僕なんか悪魔、迫害されまくり」

「アインが一番マシだよ。尻尾で前を隠せるじゃないか」

「俺だって恥ずかしいんだよ!」

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