ツケで買えちゃう道具屋さん
2010/06/01UP
道具屋はいつものように看板を磨いていた。
店内はいつものように埃にまみれている。
こちらに気が付くと怪訝そうな視線で俺を見た。
「どうしたんですか?素っ裸で?そういう趣味が?」
最悪だった。
ろくな獲物も無かった迷宮からの帰り道。
天井から落ちて来たスライムが背中に入った。
気持ち悪かったんで、泉で体を洗っていたら服と装備を盗られた。
いつもこうだ。
剣を新調すれば鉄を喰う化け物に遭遇するし、鎧を金属にすれば沼に落っこちる。
「それはそれは大変でしたね」
俺より幼く見える道具屋は俺の裸を舐め回すように見詰めながら言った。
「でも、お客さんは羨ましいぐらの幸運の持ち主ですよ」
「どこが!」
「スライムに下半身の一部を溶かされてエラいことになった人もいるんですよ?
それに泉。
あの泉って罠なんですよ?
気付いてなかったでしょ」
「罠?」
「屈強な戦士や強力な魔法使いだって子供にしちゃえば弱いもんです。
あそこの盗賊はそうやって高レベルの冒険者をカモるんです」
そうか、俺は・・・
「お客さんは最初から子供でよかったですね」
うるさいな。気にしてるのに。
お前だって見た目は子供じゃないか。
実年齢はどうだか知れないけど。
道具屋は服と最低限の装備を渡してくれた。
「下着が無いんだけど」
「うちには置いてないんですよ、特別に仕入れないと」
「シャツはともかくとして、せめて下ぐらい」
「稼いでから言ってくださいね、ちなみにツケはトイチですから」
「高いよそれ」
「何言ってるんですか、そこの金貸しなんかトゴですよ」
「10日で5割?」
「いえ、10日で5倍です」
「うわっ、そんなので借りる奴いるの?」
「いますよ・・・知ってます?復活の薬とか回復の薬って人間の命を原料にしてるんですよ」
そんな不気味な表情で口にされると笑えないんだけど。
「なんか、幸運度の上がるアイテムとか売ってないの?」
「もしそんなのがあるんなら売らないで自分で使いますって」
そうだよな。
この店、不景気そうだもん。
店主は看板磨きがメインの仕事だし。
「これは趣味です」
「じゃあさ、稼げるように凄い武器とか無い?伝説の武器とか」
「道具は使う人次第ですよ・・・無いことも無いですが・・・」
名前だけは聞いたことのある有名な刀鍛冶。
彼が鍛えた大人の背丈よりも大きな重斬撃剣。
それが軽々と運ばれて来る。
えっ?こいつこんななりして実は凄い力持ち?
とか思っていたら投げて寄越された。
ば、馬鹿、潰れる・・・あれ?軽い?
鞘を抜いてみる。
「インチキじゃねえかコレ」
柄と鞘は重剣のものだが中身は細身の短剣だ。
「本物ですよ。前の持ち主は毎日のように手入ればっかりしてたそうです」
「研ぎ過ぎてこんな大きさに?」
「はい、名剣でも魔法が掛かってるわけじゃないんでちゃんと減ります」
聞くと親の遺産を注ぎ込んでこの剣を手に入れた男は、明日から迷宮に入る、明日からと言いながら何十年も剣の手入れを繰り返しているうちに亡くなったそうだ。
「剣としては無価値以下なんですが、なんかね、似てる気がして」
道具屋はそう言いながら趣味の看板磨きを続けた。
「その看板ってさ、元はもっと大きかったりしたの?」
「小さくなる前に儲けられるようなお宝を持ち込んでくださいね」
ぽいっ。
「特別サービスです。ツケだって普通の客にはやってないんですからね」
「下着・・・これ女物じゃねえの?」
「男モノですよ、さっき物干から取り込んだばかりですから」
「あのな、まあ貰うけど」
「なんか獲物を持ち帰ってくれたら洗濯前のもサービスしますから」
(了)
ちょっと無理矢理にショタ要素を入れました。 |