コネとコイ
2010/06/02UP
店番を頼んだら2匹は嫌そうな顔をした。
うちには拾って来た居候が2匹いたりする。
仔猫のコネと仔犬のコイ。
「しょうがないだろ?仕入れに行かなくちゃ売る品物がなくなっちまうんだから」
辺境のこんな小さな道具屋に配送してくれるような酔狂な問屋は無い。
モンスターだって多い。
もっともだからこそ商売が成り立ってるわけなんだけど。
(店を閉めればいいのに)
コネは無言でそう訴えていた。
(連れて行ってくれないかな?)
コイも無言でそう訴えている。
俺だってそれは考えた。
気晴らしを兼ねて2匹を連れて行ってもいいかなあっと。
こいつらは可愛いから問屋だってサービスぐらいしてくれるかもしれない。
女の子だったら完璧だったんだけどそこまでは求めない。
悪戯と泥と絆創膏が似合うような男の子だが何故か妙に可愛いからOKっ!!
甘えてくる仕草なんかは、昔つきあってた女よりずっと・・・
ってそんなこと言ってる場合じゃなくって。
でも、こいつらは魔道車に乗せられないんだよな。
試したことはあるんだけど、ガタガタと震えてるなんて可愛いもんじゃなくって興奮して車内で暴れまわりやがる。
俺だって操作はそんなに得意じゃないんで後部座席でのでんぐり返りはともかく運転席に突進された時は思わず事故りかけた。
事故ると免許を剥奪されちまう。
教習所に通い直す暇なんかないし、そもそも卒業検定に受かったのも奇跡だと思ってるんで取り直せる自信が全く無い。
店を閉めても構わないんだけど自由に遊ばせておくとロクなことをしない。
コネは高い木に登って降りられなくなったり、家具で爪を研いだりするし、コイはコイで庭に落とし穴を掘って自分で落ちて泥だらけになってたりする。
そんなわけで2匹は店番決定。
「帰って来たら散歩に連れってってやるから」
俺はそう言いながらコネの喉とコイの頭を撫でてやった。
はあ。
疲れるんだけどな、散歩。
コネを抱っこしながら走り回るコイを追っかけるのは。
☆☆☆
大急ぎで仕入れを終えて大慌てで帰って来ると2匹は尻尾を振って迎えてくれた。
しかしそこは猫と犬。
コネは床に座ってビタンビタンと不機嫌そうに尻尾を振っている。
コイは跳びつきながらグルングルンと嬉しそうに尻尾を振っている。
うっ。
思わず顔が緩む。
こいつらは尻尾を振っている姿が一番可愛いと思う。
寝床に忍んで来たり、俺を喜ばせようと一生懸命に手伝いをしてくれる姿も可愛いけど尻尾には敵わない。
「ご苦労様。その辺で遊んできていいぞ」
俺は店を閉めると台所で食事の用意を始めた。
☆☆☆☆☆
「で、喧嘩の原因は?」
2匹はズボンとパンツを履いておらず下半身裸だった。
仲は悪くない2匹だが時々こうして喧嘩をすることがある。
手加減ってものを知らないから店の魔法薬の在庫がまた減った。
トイレ。
原因はトイレだった。
「家のトイレを使えっていつも言ってるだろ?」
2匹はしゅんとしている。
理屈では分かっていてもまだ本能の方が強いんだろう。
コネはコイが片足を上げておしっこすることが気に入らず、
コイはコネがしたあとに足で土をかけるのが気に入らなかったらしい。
外で一緒に用を足した後で口論となり喧嘩になってしまったようだ。
ドサクサで脱いでたズボンとパンツもどこかへ失くしてしまっていた。
「もういいから、風呂に入って体を洗って来い!」
☆☆☆☆☆
うっかりしてた。
風呂嫌いと風呂好きを一緒に風呂場に放り込んだらどうなるかなんて分かりそうなものだったのに。
銭湯に行かせなかったのがせめてもの救いだ。
俺は暴れる2匹を濡れタオルで拭いてやりながら考えていた。
仕入れたばかりなのに魔法薬の在庫が尽きちゃったよ。
また仕入れにないといけない。
費用が掛かっても冒険者を雇って運ばせた方が安いかなあ?
(了) |