『Alphelion』 前史−物語のはじまり−


 本編のお話が始まるまでのイリュシオーネの歴史を簡単にまとめてあります。小説の中でも次第に明らかになってくることばかりですが、事前に知っておくと『アルフェリオン』の世界をいっそう楽める?かもしれません。


1.タロス王国の革命

 この物語の舞台となる世界イリュシオーネは、数十の群小国および六王国と称される大国――オーリウム、ミルファーン、エスカリア、ラナンシア、タロス、ガノリス――から成り立っていた。小規模な戦争が局地的に生じることもあれ、全体としてのイリュシオーネの平和は、六王国の勢力均衡のもと百数十年以上にわたって維持されてきた。

 だが今から14年前(新陽暦289年)、世界を揺るがす大事件が起きた。六王国のひとつタロス王国の革命である。市民と一部の貴族・神官によって王権が倒され、タロス共和国が誕生する。これによって実質的には「五王国」となった。革命の炎は続いて多くの小国家に飛び火し、方々で市民と国王の武力衝突が発生した。いくつかの国では新たな市民政府が生まれたが、大半の諸国では国王側と市民側との妥協という結果に終わることが多かった。つまり国王が市民側に対して一定の譲歩を行い、身分制に象徴される伝統を徐々に改める改革が、なれ合い的に行われていくことになったのである。

 五つの大国もこの時流に影響されざるを得なかったガノリスも上述のような内政改革を行うとともに、新陽暦290年代初頭、以前からの軍事国家的性格をいっそう強めていく。エスカリアとラナンシアの状況もおおむねガノリスと同様だった(同290年代半ば)。ミルファーンでは、王権がもともと開明的であったため、市民からの強硬な要求もなく現状維持となった。オーリウムは独特の状況である。この国では、貴族や都市の力が古くから強く、国王の権威は形式的なものにすぎなかった。王は国の象徴として君臨するにすぎず、実際には貴族、神官、市民の代表による身分制議会が国政を動かしている。


2.エスカリア帝国の成立

 それから約10年の月日が流れ、革命騒ぎも沈静化しつつあった新陽暦301年春、またも事件が起こる。五大国のうちの2国、エスカリアとラナンシアとが合併したのだ。詳しく言えば、エスカリア王ゼノフォスとラナンシア女王エレイアとが結婚し、ラナンシアがエスカリアに吸収されたのである。六王国間の個別の同盟や合併を禁止する条約が結ばれていたにもかかわらず……。ただしこれ以前から、タロスが革命により六王国から離反した後、エスカリアとラナンシアは、他の3国に対して従来の取り決めをことごとく破るような行動に及んでいた。

 新しいエスカリア王国の出現により、イリュシオーネ諸国の勢力関係のバランスは一挙に崩れた。ガノリス、オーリウム、ミルファーンの3国は、エスカリアの行動は条約違反であるとして抗議する。しかしエスカリアは譲歩するどころか、周辺の小国家を実質的な支配下におき、国名をエスカリア帝国と改称した。タロスを欠いた3国に対してなら、エスカリア帝国とその属国の力で十分対抗できると考えたのであろう。実際、タロス共和国も、諸王の争いに対しては傍観者の立場を決め込んでいた。

 イリュシオーネの国際情勢はにわかに緊張し始めた。さらに勢力を広げていこうとするエスカリアに対して、軍事大国を自認するガノリスが対抗する。ガノリスも周辺の諸国を傘下に引き入れ、反エスカリア政策を着々と進めていた。二大勢力の動向に対して、タロスとその近隣諸国は中立的な立場をとる。ミルファーンとオーリウムもすぐには動かなかった。両国はエスカリアの絶対的優位が確立されることを避けたいとは思いつつ、他方でガノリスの風下に立つことをよしとしない。その結果、成り行きから後にはオーリウム・ミルファーン同盟の締結につながっていく。

 こうしてイリュシオーネは、2つの巨大勢力(エスカリア、ガノリス)、2つの中規模勢力(タロスと近隣諸国、オーリウム・ミルファーン同盟)、という図式で塗り分けられることになった。


3.帝国軍対連合軍

 しかしガノリスも黙っていない。同国はその強大な軍事力を背景にミルファーンを威嚇し、同盟に加わるよう要請した。これに対して明確な返答をしなかったミルファーンに対して、ガノリス軍は極秘裏に強襲を行った。実力でミルファーンを引き入れようというのである。

 ガノリスのこの暴挙がイリュシオーネに大乱をもたらすことになる。ガノリスの極秘計画は、実は内通によって事前にエスカリアに漏れており……ガノリス軍の精鋭がミルファーン攻めに向かった隙を狙って、エスカリア帝国とその同盟諸国の軍(帝国軍)は、ガノリス国境に向かって一斉に進撃を開始した(302年)。

 他方、ミルファーンはガノリスの精鋭部隊に首都を奇襲されたが簡単には屈しなかった。ミルファーンの王室警護部隊は、ガノリス軍に王宮を制圧されつつも、市民たちの義勇兵とともに市街戦を行って抵抗する。そうしているうちにミルファーン側の主力軍も到着し、ガノリス軍は、エスカリアの進撃という理由もあって自国への引き上げを余儀なくされた。

 ガノリスとそれに味方する諸国(連合軍)もエスカリアに対して反撃を開始し、一進一退の状況が続いた。そして数ヶ月後、戦線は両同盟の境界線付近で膠着し、さらに時間が流れた。


4.オーリウムに内乱発生

 だが新陽暦302年冬、エスカリア側が突然大規模な侵攻を開始した。エスカリア皇帝ゼノフォスは「神帝」と名乗り未知の技術で作られた巨大な浮遊城塞エレオヴィンスの完成とともに、大飛空艦隊を率いて自ら出撃する。この時以降、ガノリスの連合軍は次第にエスカリア帝国軍に圧倒され、各地で敗走を繰り返した。

 それまでガノリスがエスカリアに対する防波堤となっていたため、オーリウムは、かりそめの平和を保っていた。しかしガノリスの劣勢という事態になり、その平穏は危機に瀕した。オーリウムの臨時議会は、ガノリスへの支援に対する賛否をめぐって紛糾する。 そして新陽暦303年の晩春、ガノリス支援が議決されると同時にオーリウムに異変が起きる。この決議を承知しない親エスカリア勢力が反乱を起こしたのだ。

 反乱勃発の知らせが都に届いた頃、郊外の丘の上にひとりの少年がたたずんでいた...

 主人公、ルキアン・ディ・シーマーである 。

 そして物語は始まる。


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