HYBRID-FANTASY A L P H E L I O N アルフェリオン |
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第42話 |
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Copyright (C) 1998-2008. Hayato KAGAMI |
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結果的には、憎み合い傷つけ合うためだけに 二人が出合ってしまったのだとしても、 そんな出逢いさえ、 僕らの未来にとって無意味だったとは思いたくない。 1. 中央平原の彼方、朝露に濡れる草の大海の果て、昇り始めた太陽。 青き薄闇に支配されていた大地が、朝の光のもと、再び彩りを取り戻す。日の出をきっかけに、ギルドの陸上部隊がナッソス城に向かって攻撃を開始した。 最前列、光の盾・MTシールドを張り、長槍を構えた巨大な鋼の戦士が整然と横列をなす。ペゾンやゾーディーなどの汎用型を基本とし、通常の甲冑の上に追加の装甲を重ねた、重戦士のごときアルマ・ヴィオの群れである。華々しく先陣を争うような突撃ではなく、敵軍を包み込むように威圧する、重厚感のある進軍だ。 背後に陣取った陸戦型アルマ・ヴィオも、味方の進撃を支援するため、MgSを斉射し始めた。重騎士たちの頭上を越え、多数の魔法弾がナッソス家の陣地めがけて飛んでゆく。長大な砲身をもつ遠距離用のMgSがうなり、鋼の猛虎・ティグラーが吠える。魔法弾の雨を降らせる、多連装のMgSを装備した機体も見える。 対するナッソス家も万全の構えで待ち受ける。 城の天守に当たる塔では、自らも上半身に鎧をまとったナッソス公爵がギルド側の動きを見つめていた。彫りの深い顔に、さらに深く窪んだ鋭い目。 「奔放な賞金稼ぎやゴロツキどもの寄せ集め、手柄を争って我先に殺到してくるのかと思えば、さすがにそれほど愚かな連中でもないか。相当な規模の軍を率いたことのある者が、指揮を執っているようだな」 四人衆のリーダーであるレムロス・ディ・ハーデンも、伸縮式の遠眼鏡を手に公爵の傍らに立つ。 「おそらくは《旧ゼファイアの英雄》、カルダイン・ヴァーシュ。かつてゼファイア王国の空の海賊や義勇兵を束ね、大国タロス共和国の軍と互角に戦い続けた強者です」 40代も後半にさしかかろうとする経験豊かな機装騎士だけあって、レムロスは、敵軍の総攻撃を前にしても落ち着いていた。上品に刈り込まれた口髭を撫でながら、彼は敵の将カルダインの用兵を評する。 「空の海賊ならではの神出鬼没の戦法を駆使し、タロス軍を悩ませた男。今回も、俊敏な陸戦型でこちらの背後や側面を攪乱するような作戦に出てくるか、空から飛行型で急襲でもしてくるのかと思いきや、重装備の汎用型を並べて戦列を押し上げてきたか。慎重ですな」 「今は亡きゼファイアの亡霊が、何故にオーリウムの現状を、この国の人間の先頭に立ってまで守ろうとするのか。厄介なことだ」 公爵は不敵に笑っている。ギルドに包囲され、しかも決定的な制空権をも敵に掌握されてしまった彼らが、なぜこうも悠然と構えていられるのか。その答えは公爵の言葉にあった。 「だが、いかにギルドがあがこうと、城に達することはかなわぬ。遥か前新陽暦の時代以来、この城は戦乱の中央平原において一度たりとも落ちていない。丘に宿る地霊の加護と、大地の無尽蔵の魔力を操る旧世界の兵器……」 城の周囲に立ち、天高く伸びる、例の四本の黒き石柱。そのうちの一本が正面の窓から見える。それに公爵の眼差しが向けられた。 「《盾なるソルミナ》の力がある限り、何者も恐れるに足りぬ」 ◇ ギルドの飛空艦隊は、ナッソス城から一定の距離を取り、高空から戦場を見おろしている。問題の《盾なるソルミナ》――ギルド側にとっては、危険な匂いのする謎の構造物――の正体を見極め、空から臨機応変に対処しようとしているのだろうか。 飛空艦クレドールの格納庫では、メイ、バーン、ベルセア、サモンの四人が待機していた。 愛機のリュコス、鋼の狼の体を気遣うように見上げ、ベルセアがつぶやく。 「ガダックのおっさんがコイツを寝ずに直してくれたおかげで、俺も何とか参戦できる。リュコスの脚の損傷が思ったより深手でなかったのは、奇跡的だったな。で、メイのラピオ・アヴィスはどんな感じ?」 「うん、間に合うかどうか微妙。さっきから技師のみんなは、もうすぐもうすぐって言ってるんだけど……」 向こうの方で翼を休めるラピオ・アヴィスと、その機体の周囲で忙しく動き回る技師たちを眺め、メイは溜息をついた。昨日、ナッソス四人衆のパリスに撃破されたにもかかわらず、メイもベルセアも幸い怪我らしい怪我はしていないようだ。 ボロボロの革のマントをまとったサモンが、相変わらずぼんやりした口調で言葉少なに応じる。 「そのときは、いつもの倍、俺が働くさ」 腰に差した二本の剣。長刀の方の柄を、彼は黙って握りしめる。 「おめぇら、よくそんなにのんびりしてられんな。もう戦いが始まっちまったぞ!」 薄暗い格納庫の中、バーンの大声が天井にまで響き渡った。 彼の背後には、自慢の《蒼き騎士》ことアトレイオスの勇姿がある。魔法金属の甲冑を身に付けた、汎用型アルマ・ヴィオがそびえ立つ。その足元には、アトレイオスの背丈をも超える長さの抜き身の《剣》が、化け物じみた存在感で横たわっている。 小山のごとき鋼の塊の前を、腕組みしたバーンが落ち着かない様子で行ったり来たり。その姿は、あたかも巨人用の剣を見上げる小人のようだ。 「今日こそは、この《攻城刀》が久々に大活躍だぜ。あのヘンテコな黒い柱が何だか知んねぇが、これでたたき壊してやる」 剣を振り回す動作をして、バーンは一人で悦に入っている。 ベルセアは亜麻色の長髪をキザな手つきでかき上げた。 「ほんと、腕力馬鹿が振り回すには格好の相棒だ。まぁ、そんなに焦りなさんな」 「馬鹿が何だって? あ、そういや、ルキアンは」 バーンは急に思い出したかのように、あたりを見渡した。 「ブリッジでまだクレヴィーと打ち合わせてた」 ぶっきらぼうに答えたメイに、柄にもなくバーンが表情を曇らせる。 「そっか……。でも、あいつ、覚悟は出来たとか何とか言ってやがるが、いいのかよ。今朝にしても無理に笑顔を作ってる感じだった。大丈夫なのか」 メイは大げさに肯き、意味深な目つきで他の三人に言った。 「そうねぇ、シソーラ姐さんが言ってたことが、ちょっと気になるかな。実はルキアン、ナッソスのお姫さんと知り合いになっちゃったらしいのよ。でね……」 わざとらしく声を潜めて彼女は告げた。悪気はないのだろうが、不謹慎にも半分はルキアンのことをからかっているように聞こえる。 「ルキアン、あの名高い戦乙女に恋しちゃったのかも! このメイ様の推理は完璧だわさ」 お喋りなメイに、ベルセアは呆れて苦笑している。 「美貌のお姫様と運命の出逢い、しかも何とお互いは敵同士だった、ってか? どこの三文小説だよ。でも実際には笑えない話だな。カセリナ姫が凄腕のエクターだってことは、俺も噂には聞いてる。もしルキアンと彼女が戦場で再び出合ってしまったら、お前らどうよ?」 そう言うとベルセアは肩をすくめた。おどけた身振りで、重苦しい結論を敢えてごまかそうとするかのように。 「顔を知ってる相手との戦いは、ベテランのエクターでも結構きついぜ。それが若い娘相手なら、なおさらだろ……」 |
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