HYBRID-FANTASY A L P H E L I O N アルフェリオン |
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第43話 |
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Copyright (C) 1998-2008. Hayato KAGAMI |
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だから俺は、愛のためには戦わない……。 (レーイ・ヴァルハート) 1. ――私は負けない! この城を、みんなを、守り抜いてみせる。 イーヴァの手にしたMTランスに、カセリナの凄まじい気迫がこもる。光輝く槍先が、一体、また一体とギルド側のアルマ・ヴィオを貫いてゆく。旧世界から甦った戦の女神・イーヴァを止められる者は、ギルドの精鋭たちの中にもいなかった。 ――行け、ネビュラ!! 荒れ狂う炎がたちまち生き物のように動き出し、大地を駆け抜けた。炎の精霊、伝説のサラマンダーを思わせる《ネビュラ》が、カセリナの意志に従って敵を猛追する。 カセリナの戦いをナッソス公爵も見守る。敵前衛を総崩れに追い込んだ彼女の活躍に頷きつつも、公爵は表情を曇らせ、レムロスに言った。 「これほどひどい父親が、世の中にいるものだろうか。娘を戦場に送り込み、しかも最前線で戦うよう命じるなどとは……」 続く言葉をしばらく飲み込んでいた公爵。だが、一瞬の寂しげな眼差しは、深く窪んだ目から消え去った。 「だが私は父であるよりも前に、ナッソス家の当主として、勝つために必要なことを粛々と実行せねばならぬ。カセリナについても、最愛の娘としてではなく、我が軍最強のエクターとして扱わねばならぬ」 ナッソス公爵は手を組み、無念そうにつぶやいた。 「許せ、カセリナ。いましばらく耐え、《帝国軍》がオーリウムに到着したら、もう二度とお前の手を血で汚させたりはしない。そのためにも、この戦、決して負けられん!」 そうこうしている間にも、カセリナの率いる部隊は破竹の勢いで進撃してゆく。だが、公爵の傍らにたたずむレムロスの横顔が、何かに気づいた後、微妙に引きつっている。 「まさか……。いや、アルマ・ヴィオをよく知るギルドのこと、あり得るか」 四人衆の長は小さくうめいた。彼は遠慮がちに公爵に伝える。 「殿。ひょっとすると、我らは《カードを無理に切らされた》のかもしれません。撤退にしては敵陣の動きが妙です」 遠眼鏡を片手に、レムロスは地上を手で指し示す。 「最初から、ギルドは、イーヴァやレプトリアを早々に使わせるつもりだったのではないでしょうか。お嬢様たちが攻撃を仕掛けた後、敵はあまりにも素直に、あれだけの猛攻を受けながらも整然と退いております」 「おのれ、ゴロツキどもが図に乗りおって!」 苦虫を噛み潰したような顔つきで、ギルドへの嫌悪の声を吐き捨てた公爵。彼とは対照的に、一貫して落ち着いた態度のレムロス。 「あのような重装甲・重武装の汎用型によって一斉に包囲網を絞られれば、たとえその進軍自体は鈍重でも、こちらの通常のアルマ・ヴィオでは阻止しようがありません。そこで我らは、イーヴァやレプトリアの力に頼らざるを得なくなるというわけです」 公爵は、怒りの中にも怪訝そうな気色を浮かべて問う。 「それが何と? 《レゲンディア》の機体を投入して敵陣を切り崩すのは、最初から我らの狙っていた策ではないか」 「凡庸な機体を何体投入したところで太刀打ちできないレプトリアの力は、すでにギルドも十分に知るところです。お嬢様のイーヴァの力に至っては、一体でひとつの軍隊にも匹敵します。それらの強大なレゲンディアが、《いつ》、《どのように》使われるのか読み切れない限り、敵の作戦には、常に予想外の破綻の可能性がつきまとうことになります」 「うむ……」 「敵軍よりも多い兵力をもって戦場にのぞむこと、つまり《数》の問題は、アルマ・ヴィオの戦いにおいても重要です。とはいえ、殿、今の我らのように両軍が《旧世界》の機体を持ち合っているような場合には、双方の数の違いは決定的な問題ではなくなります」 怒りに沈黙する公爵を前に、レムロスは冷静に語り続ける。 「結局、この戦いの流れは、圧倒的に優れた機体とそれに見合ったエクターを、どのタイミングでどこに投入するかということによって決まると――ギルドの指揮官たちはそのように考えているのでしょう。そこで奴らは、こちらのレゲンディアのうち何体かをまず戦場に引き出そうと狙ったのではないかと。事実、我々は、切り札を使える選択肢をその分だけ減らされました」 手にした地図を握りつぶさんばかりの勢いで、公爵は憤激している。 「《重装歩兵》で戦列を押し上げてくるなど、ギルドの戦い方にしては真っ当すぎると思っていた。正攻法を同時に《おとり》として使いおったのか!」 「しかし、殿、ご安心ください。カセリナ様やザックスと互角に戦えるほどの使い手は、相手方にもおそらく一人か二人。幸い、ギルドには《私の機体》のことも全く知られておりません」 憤怒もいくらか落ち着いたのか、ナッソス公爵は目を閉じてつぶやいた。 「頼むぞ、レムロス。それに、我らにはさらなる切り札がある。敵がいかに強大なアルマ・ヴィオを何体持っていようと、中に乗っているのは人間だ。そして人間というものは脆い……。特にその内面というものは、あまりにも脆い。鋼の鎧をまとおうと、巨大なアルマ・ヴィオに乗ろうと、人間が《盾なるソルミナ》の力に抗うことなどできはしないのだ」 だがそのとき、荒い息と共に、二人の背後から伝令の緊迫した声が響いた。 「申し上げます! ギルドの飛空艦から、高速で接近する飛行型らしきものが3機!! そのうち2機が、主戦場を迂回し、それぞれ別の方向から城へと高度を下げてきております」 公爵は肩を震わせ、伝令に向かって叫ぶ。 「《ソルミナの柱》に気づきおったとでも? すぐにディノプトラスを出し、たたき落とせ! 」 「殿、すでに《柱》の守備にはムートの《ギャラハルド》がついております。必要とあらば、私も……」 レムロスは己のまとったエクター・ケープの裾を整えると、慇懃に一礼した。 |
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