[ 京都の初日]

 

川端通りを五条から四条へ向かう途中のタクシーの中で、なんか別の国に来たような錯覚におちいっていた。

「ここは本当に日本だろうか?」

...と言えば、ここ以上に日本らしいところは、ないはずなんだが...。 鴨川ぞいにずらっとならんだ木造の建物は、僕に、まるで見知らぬ国へ来たような、いや、何かの映画のセットに入ったような、とにかく現実感の薄い所を思わせた。

「やれやれ、妙な所に来ちまったなあ。」

--- 普通、京都に来れば、日本情緒あふれる風景に感動したりするものなのにね。 ---

祇園にある職場に顔を出して、会社が決めてくれたマンションまで歩く。 このときは感動した。
四条花見小路下ル、のあたり。

「いや、すばらしいじゃないですか、この街並!」

舞子さんなんか歩いてるし、家々はみんな木造で(あとになって、見かけだけ、と知ったけど。)
窓には簾がかかっている。
建任寺の桜が満開で、まさに" 舞う "というふうに花びらが舞っていた。

そうか、こんなふうな所をいわゆる侍、新選組とか坂本竜馬とかが、歩いていたのか...などと思いながら、ぶらぶら歩いてマンションにつく。
なんと!
マンションまで昔風の建物だーー!!

--- 鉄筋6階建だけど ---

瓦屋根で、まるで旅館のような感じの建物が、これから住むマンションだった。 しかもオートロック。
ここは日本風に、 自動施錠装置付き玄関の・・・・・う〜ん、つまらん。

とにかくここで暮らすことになった。
部屋の中は普通だったから良かったけど、でもまわりに生活っぽい店が全然ないじゃないか。
ドラッグストアとか、大きなスーパーとか、ファーストフードの店とか、コンビニはあったけど立ち食いそばがないな。レンタルビデオもゲームセンターもなさそうだ。

男一人暮しに不可欠な種類の店が少ないので、いささか不安にならながらも、まあなんとかやっていけるだろう。
なんてったって眺めがいい。緑は多いし、川(鴨川)もそばにある。 今日からここで暮らすんだ。
がんばっていこう。

と思いながらの初日。
平成7年の4月のこと。

なにもない部屋で、旅行バッグからインスタントコーヒーと小さなポットをとりだして、最初のコーヒーを、飲んだ。

TO BE CONTINUED


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其の1、京都の初日
其の2、軟水、硬水
其の3、ファッションセンス
其の4、街の におい
其の5、引っ越しのサカイ
其の6、6月1日
其の7、八坂神社